クボタフィロ第19回定期チャイコフスキー特集の完成度は?

KBT-19th


【クボタフィロマンドリーネン・オルケスター第19回演奏会PHOTOレポート/撮影:かえるカメラ】

2月19日東京・紀尾井ホールで行われたクボタフィロマンドリーネン・オルケスターの第19回演奏会は、「チャイコフスキー」をテーマに、マンドリンオーケストラが本来持っている魅力と力を思い切り表現した、傑出した公演となった。

チャイコフスキーは、クラシック音楽の代名詞だ。音楽史にはバッハもいるしモーツアルト、ベートーベンもいる。ラベルやドビュッシーがいないクラシック音楽は考えられない。個人的に外せない作家は人それぞれにたくさんいる。しかし、クラシック音楽と言えばやはり、チャイコフスキーだろう。

クラシック音楽には三大国際コンクールがある。ショパン国際ピアノ・コンクール(1927年に第1回)、エリザベート王妃国際音楽コンクール(前身は1937年 バイオリン部門でスタートしたウジェーヌ・イザイ・コンクール)、そしてチャイコフスキー国際コンクール。それぞれ4年または5年に1回の開催(エリザベート〜は1年に1部門)。
この中では、チャイコフスキー・コンクールは後発。第二次世界大戦後のイベントで、ピアノ、ヴァイオリンの2部門でスタートし、2回目からチェロ部門が、その後声楽部門も加わり現在に至る。第1回は1958年。米ソ冷戦の雪解けを反映したかのように、1位をアメリカのヴァン・クライバーンが獲り、2位がソ連のレフ・ヴラセンコと、中国・劉詩昆の同位二人という結果に世界がどよめいた。
続く第2回はピアノでウラディミール・アシュケナージ(ソ連)、ジョン・オグドン(イギリス)が登場し、ともにその後の活躍、音楽界への貢献は既に「歴史」だ。
レコード産業の発展とともに、クラシック音楽の登竜門としてまた、若き才能の聖地としてその名を冠されたコンクールの代名詞が「チャイコフスキー」だったわけだ。世界が、そして歴史が認めたと言ってよいのではないだろうか。

かくしてクラシック音楽にあって、チャイコフスキーは特別だと思う。

そのチャイコフスキーをマンドリンで演奏する。それが今年2月19日に定期演奏会を設定したクボタフィロマンドリーネン・オルケスターのテーマだった。最初、「2012年はチャイコフスキー」との情報に接したとき、だから、ちょっとたいへんなテーマにしたものだ、と心配もした。人それぞれに、これまた、さまざまなチャイコフスキー像があるのではないか? 連想する楽曲も多岐にわたるだろう。
ピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲、交響曲、管弦楽曲〜バレエ音楽の数々。
プログラムに書かれた作品名と、それら膨大なイメージやチャイコフスキー観の間にズレは生じないだろうか? というのが勝手に案じた点だった。

リハーサルを見学/取材させていただいたとき、早くもそれは杞憂であることはわかったが若干の不安も、じつはあった。これが、本番では化けた。というか解消してあまりある演奏を耳にしてうれしくなった。うれしすぎると笑いになる。ときには涙にもなる。「マンドリンはここまでできる」というのではなく「マンドリン・オーケストラだから、このチャイコフスキーを聴かせてもらえた」という感動だ。
本番数日前のインタビューで、久保田孝さんのチャイコフスキー体験を伺った。管弦楽オーケストラで聴いた以上に、バラライカのロシア国立オーケストラである「オシポフ」の演奏を、盤面がすり切れるくらい繰り返し聴いた青春時代があったという。
バラライカ・アンサンブルは素手の指先で弦を鳴らす。その合奏は、さざ波のように空気を震わせながらメロディーを、ロシアの哀愁を伝える。弦をこすり絹のように滑らかな色合いを聴かせるバイオリン・アンサンブルによるトーンではけっして再現できない色合いが、そこにはある。その色合い、肌触りを演ずるに、マンドリン・アンサンブルは、とても合っている。マンドリンで磨かれたトーンは、バイオリン・アンサンブルともバラライカ・アンサンブルとも異なる、マンドリン・オーケストラでしか鳴らすことのできないトーンであることを、これほど的確に表現した演奏は、なかなかないのではないだろうか。
しかも、チャイコフスキー・メロディーだ。
いや、チャイコフスキーだからこそ、活きた、のではないか。

総じてチャコフスキーはメロディーの人であると思う。和声、管弦楽法、ともに王道の知識のもとに作曲され、その技法はメロディーとリズムを活かすことに注がれている。そういうふうに聴こえる。もちろん主題とその発展法、ソナタ形式とその応用/展開など、分析的に言えば、いくらでも論じることができる要素に満ちているだろう。でも、個人の音楽愛好家が聴くのは、メロディーとそれをウラで支える内声と対位するメロディーでありリズムだ。その組み合わせの中に感動を聴く。
そして、そこに現れる「チャコフスキーらしさ」は、どの作品にも同等に存在する。その極意を、久保田さんは楽譜に埋め込み、それを、この日このマンドリン・オーケストラは演奏した。
作品のいくつかは、ときおりプログラムにのせてきた経緯を持つ。だからおよそ20年近い歳月を費やして修練してきた作品もあったということになる。「白鳥」に管ではなくアコーディオンを導入したのもその一例だろう。以前の演奏時にも使った編成だと聞いた。このアコーディオンを担当したのは初代団員の一人でコンマスを務めたメンバー。留学を経て、今回久々のステージ復帰だと言う。クボタフィロとともに成長してきたメンバーもいる。親子メンバーもいる。こうしたことが強みとして出たアンサンブルの一例がこの日の「弦楽セレナーデ」であり「ロミオとジュリエット」だった。ときに端正な表情ながら、ときにワイルドに、ときにブライトに浪々と響くアンサンブル。チャイコフスキーの生きたロシアを音で再現するようなステージだ。

常に新しい世界を求める志は大切だ。が、常に原点に戻ることもまた大切であることを、教えてくれたのが「魅惑のチャイコフスキー」だった。CD発売予定は夏頃らしい。その前に、さわりをちょっぴり編集した動画をギターの時間から公開予定。

【プログラム】
第1部

バレエ音楽「白鳥の湖」よりAWAN LAKE
ワルツ(第1幕、第2曲)No.2WALTZ
情景(第2幕、第10曲)No.10 SCENE
小さな白鳥たちの踊り(第4幕、第27曲)No.27 DANCE OF THE LITTLE SWANS
スラヴ行進曲 SLAVONIC MARCH
第2部
弦楽のためのセレナーデ SERENADES FOR STRINGS
第3部
ピアノ曲集「四季」ー12の性格的描写より THE SEASONS -12 CHARACTERISTIC PIECES FOR PIANO
6月 バルカローレ BARCAROLL
11月 トロイカ TROIKA
12月 クリスマス CHRISTMAS
幻想序曲「ロミオとジュリエット」FANTASY OVERTURE ROMEO AND JULIET

編曲・指揮:久保田孝
演奏:クボタフィロマンドリーネン・オルケスター

【第20回公演の予定】
2013年2月24日 14:00開演予定
紀尾井ホール
プログラム:久保田孝 傑作選

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