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ギターニュース

岩永善信 ギターによる2時間の時空トラベル。

岩永善信コンサート・レポート
2023年11月19日/東京・渋谷・白寿ホール
写真・文:江部一孝

岩永さんの国内演奏会は4月千葉・市川市コンサートから開始、5月埼玉富士見、6月新潟市りゅーとぴあ、9月兵庫県ギター講習会(ピッコロシアター、鳴尾東公民館)、10月東京・狛江、11月京都府京田辺市と続きこの東京渋谷公演に至った。この後さらに12月香川・丸亀市コンサート(カトリック丸亀教会)が行われた。今回は11月の東京公演からレポートする。
岩永さんの公演プログラムは、古典からスタートし近現代に至る流れの中でさまざまなギターの表情・感情の起伏・物語を聞かせる。さながら絵巻のようでもある。今回はエリザベス朝のリュート曲から。

■ ウォルシンガムに行ったとき、エリザベス女王のガリアルド、 もしも私の訴えが情熱を動かせるなら、ハンソン夫人のパフ / J.ダウランド

イングランドとアイルランドの女王、テューダー朝第5代にして最後の君主、エリザベス1世が統治した時代がエリザベス朝だ(1558年 – 1603年)。対外的な戦争が一時落ち着き、宗教紛争が起こるのはこの後の時代。絵画も音楽も王朝貴族のパトロンの元にあって文化的な収穫の多かった時代。
ダウランド自身、宮廷リュート奏者だったこともあり音楽の香りも宮廷音楽然としている。当然、その宮廷に集い暮らした王侯たちのその時代を夢想させる。同時にシェークスピアの詩集「ソネット集」的なものなのか、とも思う。思わせぶりなタイトルがついているし、貴族たちの生活の中で、奏でられることは多かったに違いないが、案外市井の人々の暮らしの中にもあった物語を当時の音楽語法でリュートにより奏でた音楽でもあろう。それは、庶民にとっては噂話のタネとしての貴族たちの風景。今私たちが映画で王侯生活を眺めるように。ギターへの編曲は、岩永氏自身によるもの。

■ プレリュード /G. サントルソーラ

サントルソーラ は南米ウルグアイの作曲家。6弦ギターのための作品で〈古風な組曲〉 の中の曲。マイナー調のアルペジョが終始流れる作品。 ウルグアイへの親近感は自分には特にないはずなのに、この悠久を連想する響きの中に普遍的な郷愁を感じるのなぜだろうか。

■ 主題と変奏 /J.シベリウス (岩永編曲)

フィンランドの大作曲家・ シベリウスの新たなギター編曲作品で、もとは無伴奏チェロのための作品。2013年初めて出版され知られるところとなった(wikipedia)という。古典を感じさせる構成。導入部に僅かに北欧の香りを感じさせ、その変奏により曲が進む。22歳、ヘルシンキ音楽院時代の作品。シベリウスを感じさせる響きはあまりないと言っていいと思う。しかし、作曲家はこの後の12〜3年の間に様々な音楽史上の“事件”に出会い交響曲1番、「フィンランディア」、交響曲2番へと繋がる。この作曲家の若き日を知れたのはとても興味深い。繰り返し聞いてみたい。

■ 埴生の宿による主題と変奏 / 横尾幸弘

横尾幸弘は1960年代、日本のクラシック・ギターの発展過程で、演奏・教育・作編曲に多くの仕事を残した。
原曲はホーム・スイート・ホーム。1823年に作詞・作曲され、同年初演のオペラ『ミラノの乙女クラリ』(Clari, Maid of Milan)の中で歌われた。日本に伝わると里見義(さとみ ただし 1824年~1886年)訳詞の唱歌『埴生の宿』として生まれ変わり明治以降歌い継がれるようになった。
前奏(導入)は短調から始まり、本編主題へ。再び短調の中間部が醸成され、本編主題がハーモニクスを伴い技巧的な演奏で帰って来る。主題はさらに変奏してトレモロで奏でられ、さらに効果的な編曲が加わる。10弦ギターの音の深さが重厚に響いた。

■ 組曲二短調〜無伴奏チェロ組曲ニ短調に基づく 前奏曲、マーチ、アリア、カプリチオ、間奏曲、コーダ /B.チャイコフスキー (岩永編曲)

ボリス・アレクサンドロビッチ・チャイコフスキー。あのチャイコフスキーとの血縁はないとのこと。
「現代ロシアの作曲家で、交響曲は4曲、弦楽四重奏曲は6曲を残している。 〈組曲ニ短調〉は、やはり無伴奏チェロを原曲とする前半のシベリウスとともに、ギターに編曲・演奏例が ない作品として、岩永善信が今回のリサイタルで最も力を注いだものである。」(プログラムより)
ソビエト連邦時代、「師であったショスタコーヴィチと同様のソビエト社会主義体制への無言の反発のようなもの」を、私自身もすごく感じる。旧体制的なものを感じさせる古典的調和への反発のような。こうした演奏を通じて、自分にとって未知の作家・作品を体験できるのもこの公演の目玉と言っていいと思う。

■ ニール・ガウの2人目の妻の死への哀歌/スコットランド民謡、金髪の少年と3人の小さなドラマー/アイルランド民謡、アメイジング・グレイス/スコットランド民謡

アイルランドとスコットランドの 云承音楽の多くのイメージは「ケルト音楽」と言われることがある。そして多くは5音音階という共通要素からか日本人も馴染み深く感じられる。6弦ドロップD的な変則チューニングを巧みに使い、懐かしい響きが深く耳に残る。

■ ペテネーラ、ロンデーニャ/R. サインス・デ・ラ・マーサ

ついこの間まで生きていたレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ・イ・ルイスは、1935年スペインのマドリッド音楽院に世界初の音楽大学ギター科教授として迎えられた。有名な〈アラン フェス協奏曲〉を初演したのを筆頭に名ギタリスト、名教授で知られたデ・ラ・マーサだが、ギタリストならではの作品を多数残し、のちのギタリストたちの重要なレパートリーになっている。
フラメンコの歌と踊り、スペイン民謡に着想を得た作品が多い。今回の演奏会自体が、作品もアンコール曲も含め、終着はスペイン。“情熱”的な締めとなった。

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