9月12日に取り上げる作曲家はドビュッシー、ラヴェル、シベリウス。
その独特で緻密な編曲プロセスについて聞いてみた。
--そして今年は、昨年に続いてシベリウスですね? ドビュッシー、ラヴェルのことも気になるんですが、それ以上にシベリウスを選んだ意図を教えてください。
笹崎:シベリウスの中・後期の作品は、マンドリン・オーケストラと相性がすごくいいと感じているんですね。ただ、その理由を言葉にするのはすごく難しくて・・・。北爪道夫先生もシベリウスとマンドリン・オーケストラの関係について、「ほんとうにぴったりだよね」とおっしゃってくださるんですが。
今度北爪先生と、この件で話することになっているんですが。僕自身は音楽における発音の仕方がマンドリン・オーケストラ的なのではないかな、と。あの作曲家は、主に・・・
--あの作曲家というのは、ジャン・シベリウスのことですね?
笹崎:そうです。持続音のあり方が空気の震えを伴なっているような気がするのと、発音の仕方、とくに木管楽器が担当しているスタッカートの感じがマンドリンが自然に出す発音と近いような気がしています。
とくに言葉=言語と音楽というのは近い関係性を持っている場合が多いので、フィンランドの言葉の発音がマンドリン・オーケストラに合っているのかもしれないですね。
今回取り上げる「交響曲6番」に関しても言っておきましょうか。ほんの一例ですが。
延々と続く8分音符の連続といった無窮動的なリズムが、実はこの曲の重要なモティーフの1つだということが、曲を分析するとわかります。ところが今のオーケストラの演奏だと、このリズムは埋もれがちなんですね。これは今と当時の楽器の性能の違いによるものだと見ています。ところが、マンドリン・オーケストラにはギターが含まれていることもあって、この無窮のリズムをはっきり出すことはオーケストレーションと演奏次第で十分可能です。そうすると、この曲の隠れた側面が浮き彫りになりますね。
--そんな話を聴くと、いますぐにマンドリン演奏によるシベリウスを聴いてみたくなりますね!
ところで管弦楽作品とマンドリン・オーケストラとの相性とはいいますが、弦楽セクションの場合、そのまま持ってきてもおそらくある程度音楽になりますよね? それプラス、木管や金管をどう置き換えるか、というあたりをクリアすれば、一応のマンドリン合奏用のオーケストレーションはできま・・・すよね? 各パートの人数、全体のバランスの作り方など、全体が音楽的にするためには人数バランスの問題もありますが。笹崎さんがアレンジを検討していく方法は、そういう置き換え的なこと、入れ替え的なこととは違うんですか?
笹崎:いや、たぶん一般的には弦楽をそのまま移して、って編曲するんでしょうけれど、これでは作品の意図と離れてしまうことも多いんですよ。音の高ささえ合っていればいいというやり方で編曲してはだめです。
僕の場合は、曲全体をまず頭の中にインプットします。同時並行で、指揮者としての作品解釈をある程度固めます。そして、自分の頭の中で「この作品はこうあるべきだ。だったらマンドリン・オーケストラではこう鳴らしたい」と設計するのが最初の作業です。つまり、どこをどう移すということではなくて、ばらしたものを頭の中で楽曲解釈に沿って再整理、再構築する、ということですね。
--笹崎さんの中で翻訳されるんですね
笹崎:そうです。だからその翻訳の時間が僕の場合は必要なんです。
メトロポリタン・マンドリン・オーケストラの前回の演奏会が9月に終わったあと約3か月間、そもそもシベリウスはなにをした人なのか? 作曲技法はどうだったのか? この曲の形式はどうなっていて、どこの動機がどうなっているのか? 周辺の楽曲との関係性は? ということをとことん調べて、自分の頭の中がシベリウスになってしまうようなところまで持っていきます。そして、1月1日に譜面を書き始めます。
たとえば、交響曲第6番に関して言うと、こんなものを作りました。どんな要素がいつどういう順番ででてくるのか、ということが一目瞭然にわかるように図解します(図A:形式分析)。
--これは、すごいですね。
笹崎:もちろん、複雑な構造だったとしてもこれはソナタ形式で再現部はここだ、ということもわかります。それより重要なことは、おおよそ時間に比例してグラフ化してあるので、全体構造が視覚化して俯瞰できる状態になるということですね。よくできた曲ほど、さまざまな発見があります。
--ぱっと見ると緻密さにびっくりしましたが、ゆっくり見ていくとだれでもわかる色分けになっているんですね。
笹崎:この作品分析ともうひとつ、シベリウスは何年にどんな作品を残し、そのとき何をしていたか、ということがわかる年表を作っています。(図B:シベリウス年表)
--作品をミクロに時間軸で追い、行動をマクロの時間軸でとらえる・・・
笹崎:ま、そんなおおげさなことでもないですが。
あと、編曲するときは、対象作品曲の音源をまったく聴かないんです。そうすることで、先入観にとらわれず自由に発想できますね。かわりにその作品の周辺、前後の作品はよく聴くし、調べます。そうすると対象作品とどういう相互関係があるのか、とかいろいろわかるんですね。こんな情報も参考にして、編曲を進めていきます。
◆笹崎さんの話はこのあとさらに核心に向かい、マンドリン合奏が目指すべき方向/考え方の具体策に触れていきます。が、その内容は後日! まずは、一ヶ月後に迫った9月12日の公演に向けて、それぞれに準備/予習しておきたいですね。シベリウス、さらにドビュッシーが1曲、ラヴェルが1曲。マンドリン合奏のまた新しい地平がこの日、拓きます!
(いったん、おしまい)
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