●「選曲において、マンドリン・オーケストラのために書かれたかどうか、は重要ではない。
その曲とマンドリン・オーケストラ、双方にとって新しい世界が拓かれるかどうか、である」
--学生オーケストラ〜社会人マンドリン愛好家という流れの中で新しい世界観が作られていったという感じでしょうか?
笹崎:マンドリン愛好家、じゃないんだけどな(笑)。クラシック音楽の愛好家なので。
話を戻しますね。僕の場合、意識としては、なににも縛られず、自由度を増して音楽活動を続けていったつもりだったのですが、逆に「自由」との折り合いをつけられなくなりまして。「自由」のなかで迷ってしまったんですね。
--難しいけどわかる気がします。
笹崎:自分の中で「自由」との関係性を少しだけ消化できた気がしたのは、31歳になってからでした。僕が編曲したラヴェルの「マ・メール・ロワ」のリハーサルをカザルス・ホールで聴いたとき、淡い光を放っているような空間が感じ取れたんですね。このとき、「ああ、この方向性でいいんだ」というような手ごたえを感じました。
--メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ演奏会のスタート後10年目のことですね!
(※メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ 演奏会の記録には、淡々としたコメントが載っている)
笹崎:「何かに比べて自由を求めたり、自由が目的になってしまっているうちは、ほんとうの自由ではないんだな」と。
それから「自由である」ためには相当な努力が必要なことも知りました。それと投資するお金も(笑)
※譜面を1万曲分、CDを2万枚くらい持っているのだそうです。
--ホームページでプログラム解説へのリンクがこの翌年から始まるのもそのへんに関連している、と見るのは考え過ぎですか?
笹崎:あ、それは、ちょっと別の事情があるんですけどね(笑)。
とにかく、それ以来、僕はマンドリン・オーケストラとは心理的に距離を置いて接するようになりました。クラシック音楽の中の、あるいは芸術の中での興味深い形態のひとつとして客観的にとらえて活動するようになった、ということですかね。
--以後、選曲された作品がなにか輝いて見えてくるような気がします。メトロポリタンでの選曲の基準のようなものはありますか?
笹崎:曲を決める際の方向性は大きくふたつしかありません。
ひとつは委嘱作品、それもクラシック音楽全体の中で優れた作曲家の方に書いていただくことです。中には昔からマンドリンが好きだったという方もいらっしゃいますが、多くはマンドリンは「初めて」という方です。
もうひとつ、これがものすごく伝わりづらいんですが、「マンドリン・オーケストラで演奏することで、その曲の別の側面が浮き彫りになるような作品を選んで編曲する」。このふたつです。
--マンドリン合奏の良さを積極的に出せる作品ということですよね?
笹崎:ええと、「マンドリン・オーケストラの良さが出る」ということと「曲の良さが出る」ということは違うことだと思うんですね。このふたつの異なる側面があって、重なった作品だけを選択する。逆にそうではない作品は、一切選択しない。こういうことなんです。
(つづく)
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