(Photo by Kaerucamera)
クラシック・ギタリスト岩永善信の活動フィールドは日本国内のほかアメリカとアジア。また20代に10年余りを過ごした留学先のパリ〜ベルギーは第2の故郷だ。4月末、ニューヨーク公演を終えて連休を過ごした後は再び国内ツアーが続く。夏には中国・南京で公演、秋には再び国内ツアー。そして年末公演へ。日常に演奏会がある真のプロ・ギタリストである。
そのギタリストの活動の中でもう一つの柱が、若い世代の指導や朋友とのコラボレーションだ。
ここに紹介する「岩永善信・酒井康雄・大野加奈代〜ギターアンサンブルの響宴」(3/3 日暮里サニーホール・コンサートサロン)は、そのコラボレーション企画で今年前半の目玉コンサートだった。なお、翌週3/11には岩永善信・酒井康雄・山田陽介により名古屋・ファイブアールホール&ギャラリーで公演を行った。
大野にとって酒井、岩永の両氏は共に師匠。酒井・岩永は年齢差による先輩後輩の関係はあるものの、ともに現役でステージに立つ音楽家として戦友のような関係だろうか。少なくとも筆者からはそう見える。そこに教え子である大野が加わり、三重奏、ときに二重奏を演じるプログラム。
ポピュラー音楽のバンドとは異なりクラシック音楽ならではのデュオ、トリオ演奏。10弦ギターの響きの奥行きをしっかり感じさせる「リュート二重奏曲」で始まり、古典派の構成美にロマン派のスパイスが加わったようなシューベルト「弦楽四重奏D.173より第1楽章」、三重奏となるバッハでは複数の音階が呼吸を合わせて駆け上がったりかけ降りたり。はたまた息を合わせ、息をのむ。重音が濃密なハーモニゼーションを作り出したかと思えばそれがグラフィカルに空間いっぱいに踊りだしたり。
ロマン派の心象そのもののようなブラームス 「アンダンテ」「マ・モデラート(主題と変奏)」は、三重奏の奥行きがさらに深まって聞こえ、贅沢な音の空間が広がった。
再び二重奏。ゆったりとしたアルペジオに乗せてメロディーがロマンチックに歌うメンデルスゾーン「作品30-1」、そして少し不穏な「作品38-2」。二重奏、三重奏問わず、〈クラシック音楽〉の佇まいがギターの音で作られていく。このとびきりの時間と空間は、いつまでも身を浸しておきたいと思わせた。
最後は「三角帽子」から。このファリャが始まる直前までは古典〜ロマン派の音楽はいい。クラシック音楽はいい。としみじみ思えていたのだが、ファリャの熱情的な旋律とリズムに身を浸すと、ギターはやっぱりこれだ!と、たちまちギター音楽漬けになってしまった。「三角帽子」はどちらかといえば他愛のないコミカルさも併せ持つパントマイム劇だが、それだけに音楽で語れる要素が十分ある。かつそれぞれが聞き応えのある器楽作品であり組曲で、名演も多く公演機会も多い。そしてオーケストラもいい。原典的なピアノもいい。しかしギターだ。緩急の起伏、「代官〜」を序奏に例えれば終曲「粉屋〜」まで圧巻のダイナミズム。ファリャはクラシック音楽の作曲家とされ「三角帽子」の初演は1917年と記録されている。しかし、この二人の演奏を聴いていると、ギターによる「三角帽子」は前世紀ではなく、いま、この瞬間の音楽だ! また聴きたい、もっと聴きたい。次の機会はいつになるのだろうか。
ギターアンサンブルの響宴プログラム
二重奏=岩永善信・酒井康雄
三重奏=岩永善信・酒井康雄・大野加奈代
●二重奏●
作者不詳 エリザベス朝時代のリュート二重奏曲 「ナイチンゲール」「ドゥリュリーの和音」
F.シューベルト 「デュオ」より第1楽章〜弦楽四重奏D.173
●三重奏●
J.S.バッハ ゴールドベルグ変奏曲BWV988(抜粋)
J.ブラームス 「アンダンテ」「マ・モデラート(主題と変奏)」 〜弦楽六重奏曲第1番 作品18
●二重奏●
F.メンデルスゾーン 「二つの無言歌」 作品30-1、作品38-2
M.デ ファリャ 組曲「三角帽子」より
「代官の踊り」「隣人の踊り(セギディリャ)」「 粉屋の女房の踊り(ファンダンゴ)」
岩永善信公式ホームページ http://www.yoshinobu-iwanaga.jp/index.html