ARTEが示すマンドリンへの愛のかたち

大阪国際マンドリン・フェスティバル&コンクール2011レポート(撮影:かえるカメラ)

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 10月8、9日の両日行われた今年のイベントは、たいへんな内容を含んでいた。毎回「ニュース」に溢れている同フェスティバルだが、今年のそれを改めてひとつずつ挙げて見る。
 第一にサーシャこと、アレクサンドル・スクロジニコワさんの圧倒的パフォーマンス。
 第二にB部門として行われたマンドラ・マンドロン・チェロ系楽器によるコンクールとその結果。
 第三にフェスティバル・コンサートで実現した2つの企画、「ARSNOVA Mandolin Quartet」(第一夜)と「世界の協奏曲」(第二夜)の面白さ、素晴らしさ。
 振り返ってみると全部傑出して面白かった。これを2日間に凝縮することは、ある意味、客として参加するひとたちにも集中力と持続力を要求すると思うのだが、過ぎてみれば、あっという間。これは主催/運営する側にとっても同じことだったかもしれない。むしろ時間をかけて準備してきたスタッフにすれば、当日の2日間はおそらく一瞬のこと。それは、音楽が刻一刻過ぎ去っていく時間の中に溶けていきながら記憶や視覚の残像として残されていく「音楽」の姿そのものと映る。この記憶と残像を少しでも形にして残すことが「ギターの時間」の使命だと思っている。


 コンクールA部門の予選を報じたギターの時間・記事へ「コメント」として、予選参加者のパフォーマンスについて、私的なメモを掲載した。予選通過者が決まった直後の感想なので、通過しなかった人への感想も含めて記した。しかし、全員のパフォーマンスが終わった直後、順位は自分の中では白紙だった。(セミファイナルのステージ写真にリンクしています)

 翌日の本選。既に各方面で話題になっているが3位ラダは個性で、青山くんは全てにおいて1位になり得る演奏だと思ったが、サーシャはその上を行ってしまった。技術がどうしたこうしたという意識を離れてステージの奏者に魅入られ、音楽の、作曲家の声を聴いている思いだった。
 少し冷静になってから思ったのは、どうしてこんな人がこのコンクールに出ることになったのだろう?ということ。 この素朴な疑問を後日、主催者・井上泰信氏に訊ねた。

 「サーシャは今年3月のモスクワでのコンクールで1位を取りました。僕は審査員として招かれていましたので、その演奏を聴いて感銘を受け、大阪国際へのエントリーを入賞発表直後に直接依頼しました。各地で得た“縁”を絶対に切らないことがこのコンクール自体の継続のキーになっています。そして世界各地で出会う“若き才能”を応援し、更に日本のマンドリンを愛する若い人たちにそれをまた国内で“刺激”として体験してもらうが僕の仕事だと思っていますし、それがこの大阪国際コンクールの一番の意図だと思っています。」
 昨年のAVI AVITALを紹介してもらったことも、日本マンドリン界の財産だと思うが、今年の彼女もまた、たいへんなことであると思う。
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 B部門にエントリーした演奏者達は、それぞれアマチュアだが、精力的に活動する団体に所属している人たちだ。マンドリンの世界は、プロのソロ演奏家が少ない中、こうした人たちへ光を当てるチャンスにもなってとても素晴らしいこと、と思えた。

 さらに今回の1位、市川さんは、高校までエレキギター、大学ではバンドを組みたいと思っていたのが、入学とともに誘われるままマンドリンの世界に入り、ギターで習得したピッキングする右手が、いつのまにマンドリンの上で踊っていた。「どうしてそうなったか僕にもわからない」(本人談)。
 今回、2日目の午前中から始めたビデオ取材で、歩き回る先々、偶然彼に出会いコメントをもらっていた。彼もそれに応えてくれた。この屈託のなさが、音楽にも現れていたように思う。「マンドリン」を越えた音楽が彼の中にはあるように思えた。1位獲得がほんとうにうれしい。


 コンサート第一夜、「ARSNOVA Mandolin Quartet」。前夜、京都で行われた「ウーゴ・オルランディ&石村隆行マンドリンコンサート」でも聴いた「プレクトラム四重奏曲二長調 作品128」(ムニエル)を含むプログラム。どちらがうまいのだろう? どちらがどのような解釈で演奏するのだろう? 
 結果、うまさの比較で語れるようなものではなかった。同じ楽譜から異なる音楽の表情が生まれる面白さ。ここから先を言葉にするのはなかなか難しい。この四重奏団は、この「企画」のためだけに終わってほしくない、マンドリンのプロパガンダになるべきカルテットだと信じる。
 演奏した作品、「プロメテウスの創造物」より序曲(ベートーヴェン)、歌劇「ウィリアムテル」序曲(ロッシーニ)、アトムハーツクラブカルテット(全曲)(吉松 隆)、スペイン奇想曲(全曲)(リムスキー=コルサコフ)の興奮は合奏による熱さとは異なる刺激をもたらした。

※一部演奏が、主催者サイドからYOUTUBEに公開されている。


 コンサート第二夜「世界の協奏曲」。
 今回招いた審査員の先生方に依頼し実現した驚きの企画だ。ウーゴ・オルランディ、カルロ・アオンツォ、粂井謙三、吉田剛士、リカルド・サンドバル。それぞれをソリストに据え、オケをARTE MANDOLINISTICAが担当。
 ここで、ソリスト達の演奏の素晴らしさはもちろんなのだが、驚くのは、おそらく短期間、いや短時間に仕上げたARTEの底力。井上泰信氏の楽曲解釈、読譜の方法は、基本的にはいたって普通の手法だと思うのだが、昨年の作曲コンクール・リハーサルでも感じたのは仕上げ時間がほとんどないはずにも関わらず、本番演奏は緻密で、曖昧さがなく、説得力を持って聴き手に伝わること。聴き手の集中力を削ぐことがない。むしろ難解そうな作品ではとくに、そんなことを感じる。このことも井上さんに尋ねると、こんな答え。

「私自身は作曲はまるでダメ、音大で正規の教育も受けていない、色々「我流」ですが、人の音楽を感じて盗むテクニックは“社会人生活”で得たものかもしれません。人の仕事のスキルを自分に活かすノウハウといいますか。
 よい演奏を提供する為には、まず自分達がよいと思えるところまで自分に努力という責任を与え続けるしかありません。そこに“チケット代金”といういわば契約が発生する。“チケット代金以上”のサービスをアマチュア音楽家が達成しようとするならば、やはり個人の意識を高めるしか方法はありません。僕ができるのは“こうしなさい”というマニュアルではなく、意識を高めるためのいわば興奮剤のようなものでしかありません」

 ということは、団員、メンバーに求める内容も高く、濃いもの、それを短時間に要求しているに違いない。それはどのようなことなのか?

「今回の場合はソリストの音楽の“前調べ”を十分にしておく事。要は用意かと。何があっても対応できる為に準備をする事が演奏する人間の責任だと思います。これは大阪国際の基本的な精神でもあります。究極のサービスの提供がよりよい音楽シーンを作り出すと思っています。それは演奏以上に運営・スタッフに言えることです。結局は音楽ではなく、精神的な意味での心構え、スタンスを示しているだけなのかもしれません」

とはいえ、極意があるのでは?

「極意はありませんが、団員を一般公募していない事は理由のひとつだと思います。“この人ならできる”という信頼できるメンバーを僕自身や団員が連れてきている事が、お互いの責任につながってきていますし、団員同志が同じ目標に向かって気持ちよく向かえる為の条件にもなってきています。この場合の“できる”とは単に楽器が上手いというスキルではありません。これは大学生の就職と企業側のスタンスに重なります。僕自身リクルーター的活動を社会人時代にやっていましたので、余計にそう思います」

 ついでに、1日目の演奏会を四重奏でやるという企画はどのような経過で、決めたのかも訊ねた。

「カルテットを復活させるのは前々から考えていたのですが、和泉君が就職した事をタイミングに、今年をリスタートの年にと決めていましたので。あとは最近よく聴く若い人のカルテットに対してある意味刺激をもたらす意味で、今回は音楽も若づくりしてみました。
 また、今回ドラ・チェロ部門開催にあたり、やはりシンボリックな存在であるメンバーの斉藤千恵・末廣健児の演奏を四重奏ではありますが多くの人に聴いて欲しかったというのも素直な理由です。みんな結婚もして子どもも出来て、仕事も生活も大変な毎日ですが、少し子どもが大きくなれば、努力次第でまだまだ時間も作れるし上も目指せることを、彼らの演奏を通して若い人たちに知って欲しいと思いました。彼らも“本職”ではない存在ですので」

 井上さんの団員に対する愛と、ひいてはマンドリン・ファンへの愛。次へ向けた計画が、この愛とともに既に始動している。(レポート:江部一孝)

【関連動画】

ARSNOVA MandolinQuartet のステージから「スペイン奇想曲」(リムスキー=コルサコフ)

同「アトムハーツクラブカルテット」(吉松 隆)
Ricaldo Sandoval
Competition-A 1st Prize サーシャことAlexandra Skrznikova”E.Podgaits:Concerto for Mandolin and Piano”

Competition-B 1st Prize Atsushi Ichikawa 市川敦嗣 “加賀城浩光:Inspiration 2”
第7回大阪国際マンドリンフェスティバル&コンクール、場外ドキュメンタリーを「マンドリンをやっていてよかったと思うのはどんなとき?」を公開。

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