日比野マンドリン・アンサンブルは、ご存知「カラーチェ・マンドリン名曲選」(発行:水星社 / 発売:音楽之友社)の著者/編者である日比野俊道氏が、結成/組織した1950年来のアンサンブルだ。氏は以来、この団体の常任指揮者として活動している。「これまで個人教授した弟子はおよそ700名、作・編曲した曲数は約1000曲にのぼる」実績を持つ(「」内=ホームページより引用)。9月4日第一生命ホールで初めてステージに接して、音の温かさとリズムの正確さが共存する演奏に、思わず熱くなった。
編成は決して大規模ではない。メンバーの年齢層はミドルからシニア。選りすぐりのベテラン弟子達によるアンサンブルは、米寿を前にした日比野氏の求めるダイナミクスを誠実に表現すべく、開演ギリギリまでリハーサルを繰り返す。その姿に圧倒された。
第一部:マンドリン合奏のオリジナル作品の指揮は久保雅典氏。典雅で勇壮なアンサンブルを響かせた。日比野先生は第二部後半に指揮で登場した。
氏は、浄土宗全勝寺のご住職でもある。そのことは、会場に足を運んだ人たちには周知のことのようだ。演奏に先立ち、挨拶とはなしが始まると、皆耳をそばだてる。震災のこと、日本のこれからのこと・・・。少し空気が緊張したかに見えたそのとき、だじゃれでオチがきた。これが日比野節(?) 会場がすっかり笑いに包まれてから演奏開始。
曲は「ハンガリー舞曲第7番」。第5番同様、耳慣れた作品だけに、リズムがキリッと立ち上がる演奏に、思わず背筋がのびる。続く「ハンガリア狂詩曲第2番」(リスト)もリズムが決めて。音楽が溌剌としている! そして、なんとロマンティック! 本番直前まで繰り返しリハーサルしていたひとつが、2小節ずつゆれる振幅、ダイナミクス。インテンポ気味に走ろうとするオケのたずなをぐいぐい押さえ、開放する。その一振りひと振りが、大きな波を作り出す。氏の音楽の理想がはっきりその後ろ姿に現れている。本番ではわずかな乱れもあった。しかしそんなことは関係ない。大きな音楽が、たしかな余韻を残した。
最後にアンコール。被災者に捧げるうたとして「見上げてごらん夜の星を」を演奏した。客席もさそって合唱にハミングに。これが、泣けた。音楽をこんなふうに聴かされると、もうお手上げ。理屈はいらない。よし、また明日からがんばろう。素直に思ってしまう。
回を重ねてなおファンが集う定期演奏会が続くのは、こんな風景が日々あるからに違いない。
【プログラム】
マンドリン人生 J.B.コック
東洋の印象 第1番 A.アマディ
夏の庭 P.シルベストリ
エジプトの幻影 G.de.ミケリ
ハンガリアは憧れ R.クレプス
ハンガリー舞曲 第7番 J.ブラームス
ハンガリア狂詩曲 第2番 F.リスト