3.金子みすゞの歌曲
久保田:あ、そういえば、話は少し戻りますが、マンドリンは対位法的な効果、ポリフォニーな感じが向いているという話なんですが。
今回、金子みすゞの歌曲のいくつかは、最初からマンドリン5重奏と歌のために作ったもので、旋律の対等のさせかたというのがピアノで演奏したものに比べると、かなりポリフォニックに作っているんです。
自分で言うのもなんですが、かなりうまくいった、という感触を持っています。
そこでも、ポリフォニックな音の鳴らし方、マンドリンはそういう音楽に向いているな、と思いました。
――そう、そうですね! 今回聴かせていただいた金子みすゞ歌曲で言えば、前半は主メロ〜歌の旋律がはっきりくっきりしていてそれだけで聞かせられる作品、後半が伴奏のマンドリンと歌が対等に楽しめる作品というふうに聴きました。
久保田:そうですか。今回の新曲は、全奏者がひとつのまとまり
として音をつくるのみならず、各パートが交替して互いに主張
し合うこともできるよう、意識して作曲しました。奏者がこれ
だけいると、そういうことがはっきりとした形で可能になりま
す。奏者同士の掛け合いは、自分自身聴いていて楽しかったで
す。
自分としてはいろんな機会・いろんな伴奏編成で演奏されるこ
とで、曲の幅が広がると思っています。
――その金子みすゞさんの歌曲、作曲はどんなふうに進めるんですか?
とくに「夕顔」「露」「ひろいお空」はギター作品にしてもいいのではと思えるくらいたしかなメロディーラインに聴こえたんですが。
久保田:その作品に限らず、まず,みすゞさんの詩を読みます。なるべく音がわき上がってこないよう言葉だけに集中して何度も読みます。
そうすると、作曲しようと思って集中していると和声的なことも含め、あるときパッとすべてが決まるときがあるんです。そういうときって構造とメロディーラインのおもだったところは全部決まるんです。
それはなんで決まるのかなって考えると、たとえば「夕顔」に関しては、詩があまりにかわいらしかったということがありますね。
基本的にみすゞさんの曲はいろんな人に親しんでいただけるようにつくりたいっていう希望があるんですが、中でもこの曲はいつも口ずさんでいたくなるような曲にしたいっていう気持ちがあって、
それはやはりこの詩のかわいらしさからでてきているのものなので、じゃ、オーソドックスにふつうの歌謡曲、ポピュラー音楽の形式にしようかな、ということだったんです。
――なるほど。
久保田:で、たとえば「露」なんかはどういうふうに作って来たかというと、あれは自分の中に伴奏があったんです。
その伴奏は、フォーレの「リディア」という歌曲の冒頭部分を、ある意味サンプリングしているんですが、その一部分を取り出してループさせながら、そこにメロディーを乗っけていくという方法で作りました。
で、それだけだと曲としては構造が弱いので、途中で展開する部分を作って。なので、あまりそのメロディーから作ったという感じではなかったんです。
でも、こういう方法が成立したのも詩の持つ構造がからきたものなんですよ。どこかに山・・・
というか明確なサビが来て、っていう構造よりも、さらっとしたメロディーが永遠に続いていくような、そういう感じの詩だったので。
――作曲パターンは多種多様にすでにお持ちだと思うんですが、ブログを拝見すると、ポピュラー曲、それもひょっとしたら久保田さんが生まれた頃の曲とか、お好きなんですよね? 80年代の邦楽、洋楽、テクノ〜ポップスみたいな。
「え?何歳なの?」みたいな・・・(笑)。サンプリングしたフレーズをループさせるなんていう技術はそのへんの影響と言うかその頃成立し始めた音楽制作の手法、ですよね?
久保田:(笑)、おっしゃるとおりです。
――しかし、当時リアルタイムじゃないですよね?
久保田:いえ、幼児体験なんです。
――え〜!? そうなんですか??
久保田:チェッカーズとか少年隊とか・・・。「ベストテン」見てましたから(笑)。
――そうですか・・・、レベッカとか、出てましたね、そうですね。
久保田:当時は楽曲分析しながら聴いてたわけでは全然ないですが、
コード進行とかメロディーとかはかなり強く覚えましたから、あとから折に触れて専門的な目で見直したりもしましたし。
だからメロディーにもそういうものから受けた影響が出ることはあると思いますよ。
――そうなんですか、驚きました。それから、もうひとつ「おや?」と思ったのは、メロディーラインに旋法がからんでいるのかな、ということなんですが。
久保田:ああ。でもそれを意識することはないですね・・・。
むしろあまりに旋法ぽくなるのは避けたいほうですし。
ただ、歌謡曲、ポピュラー音楽の延長でずっとブラックミュージックも好きで聴いているので、
「ひろいお空」でもちょっとブルーノートが出て来たりしていますが(笑)。
――主旋律に対してオブリガードやカウンターのメロディーだったり、リフ的にアクセントがついたりするというアイディアは、とくにリズムがはっきりしている曲で使われることが多いですが、そういうのはほとんどゴスペル〜ソウル〜ブラックミュージックがルーツにあると思うんですよ。
とすると、マンドリン音楽発展のアイディアのヒントはブラックミュジックに隠されている、というのは、どうですか?
久保田:ああ・・・アイディアの影響というところではそういうことがあるかもしれませんね。
それがマンドリンに合うかどうか、はあまり考えたこともなかったですけど・・・。
ただ、自分の作品で考えると、もともと私の作品は主旋律に対するものは、割と息が長いんですね。
それでほとんど旋律と同じくらい独立していたりとか。
それがわたしの傾向ではあるので、ブラックミュージック的なこととは違うんですが、
現代のポピュラー音楽、とくにそれが60年代、70年代のブラックミュージックの影響を知らず知らずに受けてそのテイストが入り込んでいるという意見には賛成ですね。
――時代を共有していれば影響が相互にあるのは当然でしょうけどね。
※久保田さんのホームページはこちら→
。興味の赴くまま、万華鏡のように話題がまたたいています。