4.ふたつの方向


――ところで強いメロディーはそれだけで存在感があるものだし、そこに印象的な詩、共感される詩が加われば強い作品は生まれますが、音楽はそれだけじゃない。和声〜コード感だけで引っ張れる音楽のおもしろさもあるし、リズムだけでいけるものもある。いろいろあるからみんないい、わけですが、久保田さんの持ち味と言うか作曲法の特徴を、あえて言葉にするとどんなものといえますか?

久保田:コード志向というのは、まずないですね。
 クラシックを勉強すると同じコードでも、コード展開のさせかたによって全く違う音になる、音色になる。その意識が、おそらくポピュラーの人よりも強いんです。これというのは、音符の縦の関係だけじゃなく、横の流れも常に重視しなければいけないという和声法の基礎があるので、縦と横を両方いっぺんに考えるというかんじですかね。
 なので、ポピュラーの人はギターやキーボードでコードとか考えながら作曲する人が多いと思うんですが、私はスコアの上で試行錯誤するという特徴はあると思います。
 作ったときから具体的にこのパート〜たとえばベースはこの動きでやっていく、というようなことではなくて、なにか抽象的な、オーケストレーションされる前の旋律線みたいなのがあって、メロディーがこうきたら、こう対旋律がくる、というようなイメージが、まずあって、それをあとからオーケストラに割り振っていく。マンドリンなら各パートに割り振っていく。そういう作り方です。

7人の若者たち
――そういう方法なんですね。今回のマンドリンのための編曲と同じですか・・・?
久保田:そうです。それで、私の中にはふたつ方向性があると思っています。ひとつは現代音楽の作品を作るとき。もうひとつが、金子みすゞの歌曲を作るときのような方向です。これはさっきも言ったようにみんなが口ずさみやすい曲をつくるという方向で、受け手のことを考えて作る方向です。でもだからといって、1回聴いただけで覚えられちゃうような曲は作りたくない。聴いたときになにか耳に残るような。すぐに覚えられる部分もあるけど、何回聴いても新鮮なところがある、というような、いつまでたってもつかみ切らないというような。そんな感じのメロディーを核というのがみすゞの曲の理想ですけどね。
――みすゞさんの曲はこれまでにどれくらい作っているんですか?
久保田:発表したのは20曲くらいですが、未発表もたくさんありますね。

――もっとたくさん聴かせていただきたいですね。現代音楽作曲家協会の作品発表に限らず、ギター用、マンドリン用の作品も発表してください!
久保田:あ、今回も1曲マンドリン用の作品があったんですが、全体のプログラムにそぐわなかったので泣く泣く外しました。

――あ、それもぜひ聴きたいです!
久保田:わたしとしても機会を見てぜひ発表させていただきたいですね。
※久保田さんのホームページはこちら→ 久保田翠ブログ。興味の赴くまま、万華鏡のように話題がまたたいています。 久保田翠