マンドリン4パートにギターを加えたマンドリン5重奏を中心とするコンサートが5月に行なわれた。
 この演奏会は、今回1stマンドリンを務めた望月豪が、作曲家・久保田翠に構成を託して実現したもの。内容は望月が提案、そこに久保田の意向を絡ませ企画された。
 マンドリンレパートリーの新しさを狙い、バロック作品を新鮮な感覚でマンドリン5重奏に仕上げた作品は、一部、久保田自身による編曲の手が加えられている。ほかに彼女自身の歌曲作品を核に据えられており後半はその作品が披露された。演奏者、そして彼女もともに30歳前後。期待される実力を持つ7人によるコラボレーションとなった。

 バロックから選ばれた2作品、モンテベルディとダウランドは、ともにバロック期の夜明けを告げた作曲家。「オルフェオ」はオペラ作品で、挿入曲、歌曲を抜粋しアレンジして演奏。ダウランドはリュート歌曲を今回の編成に向けてアレンジした。どちらもマンドリン編成の持ち味を活かし、旋律と内声部の掛け合いを楽しく聴かせた。
 ギターソロによる近代の作曲家バリオスの名曲「大聖堂」は今回ギターで参加した松尾俊介のレパートリーといっていい作品。安定した演奏でマンドリン・サウンドに緊張と柔らかいギターの時間を演出した。一部最後は久保田翠のオリジナル「Mandolo-Techno」。瞬発力のあるマンドリンの単音を活かしつつ、現代曲というより、タイトル通りテクノポップの匂いがする作品。従来のマンドリン色を払拭している。

 休憩を挟んでフォーレの「マンドリン」。この曲は“マンドリンのつま弾きを模して作曲した歌曲”。これをマンドリンでなぞった作品だという。初めて知った。いい曲。編曲の力も大きいと思う。
 久保田翠のオリジナル歌曲は金子みすゞの詩に作曲して発表を続けている作品群からの抜粋。メゾソプラノは久保田の友人でもある(ですか?)遠藤亜希子。彼女の声の力、歌のうまさもあると思うが、金子みすゞ作品の持ち味を音楽にするという試みは、試みの段階を突き抜けて、素晴らしい! おもしろい。素直にそう思えた。主にピアノで発表されて来たそうだが、この伴奏をマンドリンに移植してより効果を上げているように聴こえる。弦楽4重奏だったらどうか?とか、無伴奏チェロとソプラノだったらどうか? とも考えてみるが、このマンドリン・バージョンを1回耳にするとマンドリンしかないような気がしてきた。
 最後にマンドリン作品としては定番のロシア民謡メドレーをアンコールのように演奏して終了。
 小さなコンサートだったが、収穫の大きなイベントだった。
※この演奏会で司会(ナビゲーター)を務めた久保田翠さんに話を聞きました。
インタビューは こちら


[プログラム]
クラウディオ・モンテヴェルディ:『オルフェオ』よりritornello, recitativo, choro
ジョン・ダウランド:リュート歌曲集より(久保田翠 加筆)
“Dowlands adew for Master Oliver Cromwell”,“Humor Say What Makst Thou Heere”,“The King of Denmark’s Galliard”
アグスティン・バリオス・マンゴレ:大聖堂
久保田翠:Mandolo-techno
ガブリエル・フォーレ:マンドリン(久保田翠 編曲)
久保田翠:『金子みすずの詩による歌曲集』より「夕顔」「露」「ひろいお空」
久保田翠:『金子みすずの詩による歌曲集W』
「明るい方へ」「さよなら」「明るい家」(新作初演)
ロシア民謡:ロシア民謡メドレー(久保田孝 編曲)
ロシア民謡:黒い瞳(久保田翠 編曲)

ナビゲーター・作曲・編曲:久保田翠
メゾソプラノ:遠藤亜希子
ギター:松尾俊介
マンドリン:望月豪
マンドリン:内海絢子
マンドラテノール:安藤雅人
マンドロンチェロ:小林薫