伊東福雄さんインタビューの第3回目です。
2009-0413ギターの時間
伊東福雄さんインタビューの第3回目です。
伊 東 | スポーツのトレーニング法でインターバルトレーニング というのがありますね。 早くやったり、遅くやったり。 |
○●○ | 早く弾ける練習方法ですね。 |
伊東 | そういう練習もよくやりました。その頃は、 フォームとしても、スピードを上げたいときは “握るのが一番自然だ”、という発想はなかったんですね。 |
○●○ | ああ、なるほど。 |
伊東 | 速くしたければ、ちからワザで全力疾走! |
○●○ | 根性ですね! |
伊東 | それではいけないということを最初に意識させてくれたのは ヨガや気功ブームの頃だったと思うんですよ。 それで気がつき始めた。 しなやかであることが一番のポイントだ、と。 しゃにむにやってもいい結果は出ない。 もうひとつ高みに行きたい。それには 音楽的にしなやかになることがだいじなんじゃないか、と。 |
○●○ | なるほど。 |
伊東 | それまでは“指に覚えさせる”ということなんかも 間違っていると思っても見なかったから(笑) |
○●○ | ああ、はい、そうですよね。 |
伊東 | 指に脳があるわけじゃないからさ。 |
○●○ | たしかに。 |
伊東 | 今は、左手に関しても 「押さえてない指はどうしているの?」 と、気にかけるようにしているんですよ。 何年か前に上梓されたカルレバーロの奏法に関する考え方も このことと一致しているな、って思ったね。 つまり「指のバランス」をとりながら押さえて行く。 |
○●○ | へんに小指がはねあがっていたり、ということとかですね? |
伊東 | 子供たちの演奏を見ていると 押さえていないほかの指が伸びている。 でもこれはコントロールしてできるものなんです、 速い段階から注意して教えていけば。 いちばんおもしろいのはセーはで移動するとき 人差し指がちょっとでも先に弦を押さえると ほかの指は伸びたくなるでしょ? |
○●○ | え?あ、はい。 |
伊東 | 同時か、人差し指以外が先に弦を押さえるようにすると 自然にバランスがとれる。 こういうちょっとした力の入れかたのバランス、 ちょっとした工夫が、余分な力を抜いて バランスをよくするんだよね。 |
○●○ | あ、ほんとですね。 |
伊東 | ヨーロッパのギタリストでコンクールに出るような人たちは そういうことを キチンとやっているね。 合理的に弾くということを。 自然な奏法に近づける、というふうに考えると そういう手のバランスというのが とっても大事なことだっていうことに気がつくね。 |
○●○ | だいじですね。 |
伊東 | もうひとつ重要なことがあって、それは 「手首に力が入るとよくない」ということ。そして 「手首を無理に曲げるとよくない」ということ。 これはどちらも指の動きを阻害するから。 万年中級の人は手首か親指が解決していないんだ。 そういうことが多いですね。 |
○●○ | それは、脱力ということにも関係ありそうですね? |
伊東 | そう、それは“指先だけが現場じゃない” という考え方ができるかどうかということでもあるんです。 それと、“上下に広げる”こと。 |
○●○ | “上下に広げる”?? |
伊東 | これはクラシックギタリストにとって 常に落とし穴でもあるんだけど。 楽譜を眺めながら音にしていくときって、意識が指先に行くでしょ。 でもそこだけではまったく解決しない。 肘、肩、顔を含め全身、全体で見ないといけない。 たんに広げると、こうなるけど この方向で広げると こうなるでしょ? |
○●○ | 意識が指先でも、全体のフォームを忘れてはいけないということですか? |
伊東 | そう。いまはアンドーヴァーテクニークとか、 かならずしもギターを弾いていない対場の人からも 身体のことに関して正しい指摘がされ始めてるけど 昔はそういうことは巨匠しか発言が許されなかったからね。 |
○●○ | そうだったんでしょうね |
伊東 | 楽器は、とくにギターは本来の身体のしくみに合った 押さえ方、弾き方をしないと身体を壊してしまう。 最近の客観的な合理性を含んだテクニック論は すごくいいと思う。 |
脱腱鞘炎の第一歩といえそうですね。 | |
伊東 | 指の問題、テーマはまだまだ未解決だけどね。 |
(続きます) |
2009-04-13-MON
ギターの時間