2009-02-09ギターの時間

ギタリスト伊東福雄さんに腱鞘炎について聞く2回目です。
伊東先生は、昔から腱鞘炎にかかったギタリストを見てきたそうです。
「いいっぱいいます」、と。 で、ご自身も腱鞘炎オーナーだそうです。
しかしレッスンの場面、そしてなにより演奏会でも
そんな気配を見せません。「腱鞘炎は予防がいちばん」
その予防の方法とは?

○●○  さきほどの手のごわごわ感は、左右の手、どちらでもおこりますか?
伊 東 おこります。
それで左右どちらでおこっても困るし、いやなことだけど
より困るのは右指です。
右指は決定的に困る。
つまりスピードが命だから。タッチの速さですね。
これをゆっくり弾けば弾けるというのは本番では
通用しない。人前で立ち上がりのいい音、まあせめて
普通の音が出せなかったら致命的ですね。
僕はね、「親指を制するものはギターを制す」、という格言を作っている。
親指関係の力の入れ過ぎとか故障が多いんです。
○●○ というと?
伊 東 親指の関節と筋肉を、悪い形で弾くとか
酷使するとかするとだめなんです。
それで、具体的には自分が指をどう動かしているかは
知らない人が多いんです。
左手は手のひら側から見えるから、まあいいんだけど
右手は見えない、あるいは見えにくいでしょ。
それにのぞきながら弾く、なんてこともできない。
○●○ はい。
伊 東 そこでギターは弾かず、手のひらを上に向けて
手のひら側から弦を弾く動きをしてみながら
観察する、ということを最近は提唱しているんです。こう…
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(▲腕の筋肉を見てみよう)
○●○ ああ、なるほど、わかりますね、ヒジの方まで動いている様子が。
伊 東 というのも、これのそもそもというのは
自分がまず良い先生になりなさい
ということをいいたいんですよ。
レッスンを受けている人でも
週に1回、それも30分とか1時間とかでしょ。週のほかの6日間と23時間は
自分でどこがどうか判断できないといけないでしょ。
○●○ ああ、そうですね
伊 東 それでほんとうは第一関節と言っている、ナックルと言っている関節を動かすことが大切なんです。
これが大きな筋肉を使っている。ヒジもそうだし、触っていけばわかるけど
二の腕から肩、肩甲骨まで関係してるのがわかる。そういう動かし方をするのがいい。
○●○ ほんとだ。よくわかりますね。
伊 東 そのときに、ところが、親指は、こうやっただけでも
緊張する。ここ(A)が緊張してはいけないの。
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一方、i、m、aは、たとえばこんなふうに
やってみるとよくわかるんだけど
この関節(B)を支点に運動させるんじゃなくて
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ここ(C)を支点に運動させるようにするの。握る感覚。
この運動がいいのはギターだけではないんですよ。
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○●○ 宇田川先生も言ってましたね。イエペスに習っているときに
同じことを言われ続けてどういうことか考えて
日本に帰ってきて練習しながら
あるときどう動かせば良いのかハタと気がついたって。
伊東 僕がこのことに最初に気がついたのは
24歳で、オスカーギリアのマスタークラスを受けたときなんですよ。
彼はさかんに僕の演奏に対して
「もっとクリアーにもっとクリアーに」と言っていた。
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(▲オスカーギリアのマスタークラスにて〜1975年)
これはどういうことかと考えたら、
これはけっきょく弦に対する“タッチの速さ”のことだったの。
でもこの音が意図して自然に出せるなら
これは西洋音楽の“楽音”に使える音なんだな、と
実感したんですよ。
○●○ そこからまた新しい世界が見えたっていうかんじですか?
伊 東 そう。で、ね、これはたとえば
フランス人の10歳くらいの子でも身に付いている
ことなんだね。
雑音を嫌う、という性向というか…。
ところが概して日本人の音への感覚というのは
雑音もまた楽音であったりするという伝統があるでしょ。
○●○ というと…?
伊東 蝉の声の聴こえ方とか、さ。
○●○ ああ、はいはい。
伊 東 で、この感覚というのは東京国際ギターコンクールへ
出場するレベルの人たちでも歴然として現れていて
外国からの出場者は、だいたいが既に
クリアな音を持っていますね。
これはかなり大きな問題だと思いますね。
○●○ なるほど。
伊 東 その感覚と、速さへの対し方。
このへんが今も課題の一つとしてあると思いますね。
それで速さに関しては右手のスピードを上げるための
トレーニングをする。
しかし、それを続けると腱鞘炎にかかっていってしまう。
僕も、以前、他のクラシックの楽器に伍して行きたかったから
同じスピードで指が動くことを目指した。
しかしそれは、続けていたらいちばん危ない、という方法だった。
たとえばメトロノームの160〜168といえば、
トレモロによる音より少し遅いくらいのスピードだけど
これをi、m、i、mで交互にやってみたり。
4つ打ちで半音階を弾いてみたり。
と、スピードに賭けたことがある。
そういうことが「危険」だったんだね。
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○●○ ああ、そうだったんですね。
(続きます)

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ギターの時間