ギタリストが体験したマンドリン・オーケストラ
――福田さんが最初に譜面を見たときの感想は?
福田:福田:北爪さんのギター独奏のための作品に、前作、前々作がありましたね。 「青い宇宙の庭I」と「青い宇宙の庭II」。「〜I」は、もう24年前の作品になる わけですけど。ギター協奏曲のスタイルである今回の「〜III」も含めて、それ ぞれ、共通したエレメントを持っているんですね。だから準備という意味で「ギ ターを弾く」というところでは難しいことはないんですが、後ろのマンドリンと どういうふうに結合するのかということを、とても楽しみにしていました。 なかなか全体像が明かされなかったので、ドキドキワクワクしながら全てのスコ アがくるのを待っていたんです。
y  それで、スコアが完成して、僕なりに読み込んでイメージはしていました。でも 実際にマンドリン・オケと弾いてみると、微妙に違うところがたくさんありまし たね。

▲本番直前のリハーサルから


 僕はマンドリンのことはそれほど詳しくはないですし、マンドリン・オーケストラとは初めてですしね。マンドリニストとはこれまでにも共演した経験はありますけど。
――井上泰信さんとの演奏はよく憶えています。恩地早苗さんとはCD で『マンドリンとギターのための音楽』とかありますね。
福田:でも回数で言えば5回か6回くらい。30年くらいの僕のキャリアの中でね。2年前に小出さんに誘われてこのオーケストラの公演をカザルス・ホールで聴かせていただいて、「ああ、おもしろいものをやっているな」と思いました。それとCDを聴かせていただいた。それで、湯浅さんや吉松隆さん、それに北爪さんの「カント」を聴かせていただいてマンドリン・オケの音というのは頭の中にあったんですけど、自分の音とどんな風に絡み合うのかはわからない。
 それからマンドリン・オケの中にギターパートがありますね。それと相殺されてわからなくなっちゃうんじゃないのかな、とかね。いろんな不安はありましたね。
北爪:そうなんだよね。僕もオケの中のギター・パート、「これがなければいいのになあ・・・」ってなんど思ったか(笑)。それでね、他の曲のスコア、これは笹崎さんの名アレンジなんだけど、それを見せてもらって役割がだんだんわかってきた時に、「なるほど」と。つまりマンドリン・オーケストラのギターパートっていうのはあっちへ行ったりこっちへ来たりするわけ。
――全体の中で厚みとかを補強したりするんですかね?
北爪:おもにバスからマンドラをね。でも、補強だけじゃないはずだし、福田さんがいるんだから、「福田さんが弾いてないのにギターの音がするよ」とかね。少し立体的なアイディアを・・・。
福田:ちょっとマジカルな効果ですね。
北爪:そんなふうに仕掛けを考えていたら面白くなってきてね。
福田:ソロを弾き終えているのに、エコーのようになっていたりとか。
北爪:モコモコ言ってたりとかね。
――ソロと比べた感想は?
福田:全然違うものですね。面白いですね。
だからなんなんだろう?同じ麺類なのに上のトッピングが違うことで別な料理になっている?(笑)
北爪:冷麺とそばの違いというか(笑)で、かなりの量「〜I」と「〜II」の素材をぶち込んでいるんです。でも仕上がりが全然違う。
福田:ただ、同じ素材といっても微妙に音符が違ったりしていてね。
北爪:うん、完全に同じというわけではないけどね。でも持ってきているところは同じだよ。
福田:同じだったらありがたかったけど(笑)
北爪:なにかこう・・・そこで違う人が「ぶーん」って鳴らしてたりするしね。
 でも刃物も使いようって言いますかね。低弦は限界まで使うとプロペラの音のようになってしまう。でもその手前、メゾフォルテくらいのところで使うと、すごく良い効果を出しますね。
――そういった楽器の特性の捕まえ方がすごいですよね。北爪さんのほかの作品でもそういうことを感じるんですが。
北爪:いやありがとう。でも僕自身はマンドリンに関して知っているつもりだったんだけど、それほどではないということがわかったの。それでどうしたかというと、笹崎くんにいろいろ教えていただいて。  で、難関の原因は、今回マンドリン・オーケストラの相手がギターだということもあったんですよね。マンドリン・オーケストラだけだったら僕がいちばん好きなところだけで書けるんだけど、一応ギターがいて「社会性」が出ちゃうでしょ。なんていうのかな。マンドリンの中だけで終わらない。どうしても表現に社会性が必要になる。そういう音楽性が、必要になってきた時に、どの程度擦り合わせでうまくいくかは、やってみなければわからなかったんですよ。
――本番は、今日リハで聴かせていただいた状態からまた変わる部分もあるでしょうし。
北爪:ホールが変わりますしね。
――楽しみです。
stage
▲2009年、9月23日東京・日本カザルスホール本番ステージ

 結果は来場した満席の会場をあとにしたお客さんたちの表情からも伺えました。つい難解とも思われる現代音楽にありながら、このオーケストラは“「自分たちがおもしろがれる音楽」「劇伴のようなタイプとも違う、ほかのオケがけっしてやらない音響のおもしろさも併せ持つ音楽」をやりたい”のだそうです。さらに、あえて言えば『カルチャーショック』にまで高めたい、と考えているとのこと。そこに賛同した人たちが集まって楽しんでいる。それがストレートに伝わる音楽会だったように思えます。
 それと、指揮の小出さんから、「あと、もうひとつ僕からつけ加えておきたいことがある」と最後に残していただいた言葉には、このマンドリン・オーケストラの特性、面白さのポイントが語られているような気がします。
「僕はいつも彼らから多くを学ばせてもらっている。『それがなにか?』と言うと・・・、通常のオケでは、楽器の特性に向いた個々の楽器の使われ方がされているので、リハを何度かやっていくうちに、音の処理やバランスが、何となく整ってくるのです。ところがマンドリンオーケストラには、それがない。アレンジは素晴らしいのにですよ!
 今回もシベリウス、マーラー、フォーレをやっていて、またまた痛感してますが、ただ流すだけでは何も変わっていかない!
 フレーズの音の立ち上げ方、音のしっぽのやめ方など、整理、分析して、「こういう音を出したいんだ」ということを伝えたとき、初めてオケが出す音が変わっていく! ということは、このオケでやった手法(解決策)が、通常のオーケストラにフィードバックできるんですよ! 僕は、ここがいちばん面白いですね!」

 みなさん、いかがですか?
▼左、楽譜を抱えているのがこのオーケストラのアレンジも手がける笹崎さん

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