メトロポリタンマンドリンオーケストラが北爪道夫さんに作品を委嘱するのは今回が2回目。最初は1997年の「カント」。そこから12年。
 北爪さんはその「カント」作曲当時、すでに1回マンドリンオーケストラについて調べ、研究し、マンドリンオーケストラを鳴らしきり素晴らしい作品を仕上げている。したがって、今作は比較的スムーズに仕上げたのではないか?  副題には「CONCERTO for GUITAR and MANDOLIN ORCHESTRA」とあるように、『ギター協奏曲』を想定して委嘱された。
 ギタリストは福田進一氏。福田さんは、これまた北爪さんに委嘱して、過去2つの作品を初演している。勝手知ったるメンバーによるプロジェクトになったわけだ。  しかし! 公演パンフレットに北爪さんが寄せた文章。

『福田進一さんには「青い宇宙の庭I、II」という2曲のソロピースを書かせていただいた。もっともこの2曲の間には21年という長い隔たりがあるのだが、福田さんの清新な演奏イメージはこのタイトルが示すように今も昔も全く変わらない。だから、今回の協奏曲に、この2曲からの引用を多く含ませることに私としては何の躊躇もなかった。とはいえ、バックがマンドリン・オーケストラであることは大きな難関として筆を遅らせた。  ここではギターとマンドリンを似て非なる楽器として把握している。したがって、二つの楽器は全く違う楽想を持って寄り添っている。2種類の撥弦楽器の遭遇はワクワクする実験でもあり期待が膨らむ』


 北爪さんが書きあげて行く過程では、団員であり、このオケの音楽監督的存在でもある笹崎さんとコンサートマスターの佐藤洋志さんとの打ち合わせが重要な役割を果たしたという。マンドリン・オーケストラを熟知している笹崎さんから得た知識が生かされることも多々あったのだそうだ。  マンドリン・オーケストラにおける、より効果的な楽器に対する音の振り分け方〜オーケストレーションに関し、北爪さんの笹崎さんに対する信頼はたいへん篤い。そして完成した手書きの譜面は笹崎さんが楽譜浄書ソフト、フィナーレを使いものすごいスピードで清書して完成、団員に配布された。

――譜読みに関する団員のみなさんへのアドバイスは?
小出:他の2曲に関しては最初の3ヶ月間、笹崎さんに任ましたが、北爪さんのは間際だったので、譜読み段階から僕が振りました。新作の場合、作曲家は何を求めてこう書いてるのか?ということを、いろいろ試しながら譜読みを進めていくのは、とてもおもしろいです。特に、浄書作業をこなした笹崎さんは細部まで見ているうえ、マンドリン奏者としても優秀だから、リハーサルでは一緒にやっていく感じです。
――楽譜を拝見するとほとんど通常の記譜法で書かれていますが、表現とか解釈はかなり難しそうですね。
小出:奏法をどうするかが難しいですね。それによって表現できるイメージが異なり、全体の雰囲気や流れが全く違ってきますから。
 福田さんの冴えたリードと、北爪さんご本人からの指摘で、どんどんよくなってくるからおもしろいです。
――そもそもマンドリン・オーケストラというのは制約があると思うんですが、そこはどんな風に考えていらっしゃるんですか?それほどでもない?
小出:制約はいっぱいあります。
――その制約も個性としてとらえるわけですか?
小出:我々は日常生活でなにか制約があると、つい諦めてしまいがちですよね。 しかしこの制約を短所=個性=長所と捉えると世界観が変わるでしょ。笹崎さんが凄いのは、これを実践してるんですよ! マンドリン族を楽器の束にして発音させると、バイオリン族のそれと違って、音が溶け合わずに対立するので、通常オケとは違った視点で、特有の色彩感を実現しています。
北爪:もともとマンドリンというのは器用になんでもこなせる楽器ではないですよね。
 それを逆に、いかにクオリティの高い表現に昇華するかというのが醍醐味であり挑戦なのね。笹崎さんがオーケストラ曲の編曲に精を出す気持ちがとても良く解りましたね。
 それに、そもそもギターとマンドリンオーケストラを組み合わせるなんていうのは一般的には無謀で、一歩間違えればセンスの悪い事になりかねない。

――それは、まず、マンドリンオーケストラの中のギターとソロギターは完全に区別してのご意見ですよね?
北爪:そうそう、マンドリンオーケストラの中にギターパートがあることも難関でしたね。ソロギターとの住み分けをどうするか・・・。そんなこんなで、この編成のコンチェルトとしての響きが耳に聴こえてくるまで、とても時間が必要だった。
小出:ああ、そうでしょうね。
福田:うんうん。
――プログラムに文章で寄せられている「難しい」とおっしゃっている部分はそこのことですね?
北爪:そう。でも、もともと「難しいからこそお引き受けしたのだった」と思い出したら霧が晴れるように聴こえてきた。
――構想が見えたということですね?
北爪:全体の響きが見えたというんでしょうか。それから、最初の頃はマンドリンオーケストラを弦楽合奏に置き換えるという発想を同時進行していたのですが、ある時点で、これは全く別物だという事に気付き、それからはマンドリンオケならではの新しい可能性に照準を合わせたので書き進められたんですね。
 弦楽合奏の構想は今でも持っていますがね、やっぱり全然違うものでしょう。だから集中し甲斐があるんでしょうね。
 今日の練習で他の曲を聴いてみても、小出さんと皆さんはマンドリン独自の世界を、とても澄んだ雰囲気で追求してますよね。本当に嬉しい、素晴らしいね。
小出:そのあたりの狙いが、さっきやったリハーサルでようやく僕にも見えてきた感じがしています。
北爪:非常におもしろい仕事でしたね。緻密な手作りの「音楽の現場」は本当に楽しいですね。
(リハーサル再開のため、小出さんはここで退席:続きます)
〈続きます〉

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