アンサンブルビアンカフィオーリ〜田口さんへのインタビュー続きです。
田口:管楽器の導入についても抵抗感があり、費用なども考慮して、マンドリン系で
代奏することも検討しました。
しかし、ある日メンバーと管楽器を入れるか否かを議論している時、「マンドリン
オーケストラには管楽器を入れるべきではない」「管楽器を入れると、撥弦楽器
楽器の響きが管の持続的音に吸い取られ、撥じく音だけがとても汚く聴こえる。」
と、述べた自らの持論に「内燃機関は機械が擦れ合って動くさまを、その効果を
利用して巧みに表現しているかもしれない!」ということに気づきました。
その瞬間に、全ての管楽器を入れることを決意しました。
ーーうーん、なるほど。
田口:練習が進み、曲の姿もわかってくると、奏者も「良い曲かもしれない・・・」と気づき
はじめ、加速度的にかたちが整っていきました。
ーー譜読みと実際の楽音で確かめるのとで、ずいぶんギャップのある作品といえそうですね。
田口:極めつけは、初めてトロンボーンが入った合宿の練習の時でした。
マンドリンオーケストラは中間の緩徐部を除くと殆ど旋律らしいものがなく機械的リズムを構成しているのですが、金管楽器によってエッジの効いた旋律が浮かび
上がり、しかもグリッサンドが多用されたフレット楽器では体験したことのない動きに驚嘆しました。
ーー管弦楽の音ですよね! それでいてマンドリンのマンドリンらしさがくっきりしていると思いました
。
田口:他に入る管楽器はフルートとバスクラリネット。フルートが入ることはたまにあります
が、バスクラリネットが入ることも珍しく、低域に揺らぐように見え隠れする持続音
にもしびれてしまいました。
ーー中間部のあたりですね、圧巻でしたね!
田口:3つの管パートが揃ったのは結局本番当日だったのですが、管楽器や打楽器を
加えた練習をするにつれ、「これは本当にすごい曲かもしれない!」という感覚が
確信となってゆきました。
というのも、マンドリン・オーケストラ+管楽器というのはマンドリンの音量的非力さと
音楽的貧弱さを露呈するものと思い込んでいた私ですが、管楽器に更なる音量を求め、ピアノにももっと強く弾くことを要求し、打楽器にも思いっきり強い指示を出す。
それでもマンドリン・オーケストラは強靭に回転する機械を演じるのですから。
ーーいや、たいへんな作品だと思いました。作曲当時、武井さんのオケが演奏したとのことですが、聴き手にはどう聴こえたんでしょうね?音響的にもすごい迫力で、そこも現代的だと思いました。
田口:たぶん、マンドリン・オーケストラ曲の中で最も鳴る曲のひとつだと思います。
スコアの表紙をめくった1ページ目には、フルート1、バスクラリネット1、トロンボーン1、
第1マンドリン8、第2マンドリン8、マンドラコントラルト3、マンドラテノール3、マンド
リュート3、マンドセロ2、マンドローネ2、ギター6、キタローネ3、ティンパニ3、
スネアドラム1、シンバル小1、シンバル1、タムタム1、タンバリン1、ティポフォン1、
ピアノ1、ハーモニウム1 と台数を含む編成が書かれています。
今回の演奏ではマンドリン・オーケストラはもっと人数が多かったのですが、実際には指定の台数でバランスがとれているかもしれません。
マンドリンという楽器の特性をうまく利用した傑作だと思います。
管弦楽版もあるということですが、マンドリン版の方がきっと合っているのではないでしょうか。
今回、プログラムの最後を飾った交響組曲「日本スケッチ」もまた、異色の作品で、多くのエピソードに溢れている。
作曲家=貴志康一の名前は、今回初めて知った。フルトベングラーに教わり、ヒンデミットに学び、日本人として初めてベルリンフィルを指揮。この自作曲の初演もそのベルリンフィルだったという・・・。とんでもない日本人がごろごろしていたのだ。いやまゴロゴロはいないと思うが、ともかくこの作品の話題にも、ぜひ日を改めてじっくり触れていたい。