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リベルテ 第8回定期演奏会レポート-1-

2011-2012 SPECIAL:INTERVIEW KOSUKE HASHIZUME
作曲家・橋爪皓佐さんに聞く「絶妙な均衡を作り出した創作の現場から」

[cincopa A8CAGzKVwGsh] 2011年11月23日東京・飯田橋のトッパンホールで行われたリベルテの 第8回定期演奏会をレポートする。
 直前に公開した記事「リベルテ第8回演奏会(11/23)2週前リハを取材レポート」で紹介したように、今回のプログラムは、代表を務める望月 豪氏はじめ、団員たちの絆とともに成長を続けるこの団体の2011年における重要なイベントであった思う。

 今回のプログラムを全曲指揮し、かつラヴェル/「クープランの墓」を編曲された鷹羽氏にはたいへん短い時間ながらインタビュー取材、この一部は既に動画版で公開させていただいた。
 今回は記事制作にあたり演奏動画をリベルテと共同作業で編集しているが、この公開を前に、橋爪皓佐氏にコメントを求めた。前半の2作品を編曲。自身、ギター演奏家であるとともにギター作品に限らず、さまざまな楽器、編成で作品提供をしている。マンドリン、マンドリン・オーケストラ、ギターにとって強力な作曲家だ。(写真左から:壺井一歩望月 豪鷹羽弘晃橋爪皓佐の各氏/撮影:かえるカメラ

--2011年秋、ちょうどリベルテの公演(11/23)に合わせたように留学から帰られたんですか。
橋爪:
9月23日のリベルテの合宿にあわせて、成田便で帰国しました。

ーーリハーサルには何回くらい立ち会うことができたんですか?
橋爪:
9月の合宿のときに一度ゆっくり立ち会って、あとは当日のリハーサルの計2回です。合宿のときに割と細かいお話ができたので、あとは鷹羽さん、リベルテのみなさんにお任せでした。

ーー現場では、どうでしたか? 反応とか感想とか。
橋爪:
やはり僕の編曲は、特にわかりやすいところだと、トレモロをあまり使わない点と、ギターを(既存のマンドリン曲に比べ)多用する点において、マンドリン的にはあまり一般的でなかったようで、リベルテのメンバーのかたから色々質問を受けました。

 僕は特殊なことをやろうとしているわけではなく、既存のマンドリンの弾き方を否定しているわけでもなく、ただ(自分の考える)ニュートラルな観点から、マンドリンの持つべき可能性、普遍性、音楽性を、ギタリストとしてでもなく、マンドリン業界の人としてでもなく、ただの作曲家、もっといえば音楽家としての立場から、正当に、自分にとってはごく普通に表現したつもりです。これも良し悪しの話ではありませんが、マンドリンくささを前面に出すのではなく、マンドリンを一つの媒体として、その後ろにある音楽を出来る限り透明に表現して行くことを目指しています。

ーーたんに好みということでは片付けにくいテーマですね。マンドリンらしさのありかたというのは。
橋爪:
リハーサルのときにも、このことはできる限りお伝えしたのですが、多分、否定的な感想もあったとは思うのですが、僕の意図を汲み取っていただき、一緒に作品を作り上げ、慣れないことにも取り組んでいただき、素晴らしい演奏をしていただいたリベルテの皆さんと指揮の鷹羽さんには非常に感謝しています。

ーー少し具体的に聞かせてください。近代のこのへんの作曲家(ラベル、ドビュッシー、フォーレ、サティ・・・)作品をアレンジするのは何曲目くらいですか?
橋爪:
フォーレは、ギター二重奏用に「パヴァーヌ」を、ドビュッシーはベルガマスク組曲の「プレリュード」をマンドリンアンサンブルにしています。
 他にも時代は違いますがいわゆる印象派系統の作曲家でしたら(フォーレはどっちかというとロマン派後期ですが)、モンポウやファリヤなんかもアレンジしています。

ーーアレンジ(トランスクリプションorアレンジメント)する対象として、古典、ロマン派と異なるところ、面白いと思うところはどんなところですか? バッハをギターにアレンジ(トランスクリプション)するのとはまったく異なる作業だと思いますが?
橋爪:
個人的にバッハはヴァイオリンからの編曲しかしたことがありませんが、楽器の制約からきたと思われる声部の動きを本来制限がなければこうするんじゃないかな? と思う所以外はほぼ一切いじりません。ギターではかなり弾きにくくてもそのままにしています。
 これはもともとバッハの音楽が複雑に旋律がからむ対位法で構成されている為、つまり、声部の動きをそのまま残すためです。そして、良し悪しではなく、派手な音の付け足しは僕は一切しません。
 古典は個人的にあまりいじったことがないのですが、ロマン派になると話は変わってきます。ピアノ曲にしてもペダル等の効果、和声法にしても、バロック期と比較してより縦に音を重ねて重厚さを出しているロマン派を扱うときは、もちろん違ったことになります。
 例えば重ねる音の位置とかですね。
 ピアノは音域が広い上に腕は2本しかありませんからね。普通の三和音にしてもどの音を厚くするかで響きは全然変わってきます。

ーーアレンジの手順の概略を教えてください。使う楽器とか参照する楽譜はどんなものを使うんでしょうか? ピアノ譜ですか、それともオケ譜、あるいは他のマンドリン用アレンジ譜などは?
橋爪:
他のマンドリン用のアレンジ譜には一切目を通しません。存在するかどうかも知りません。演奏するときでもそうですが、あまりオリジナルの楽譜以外からの予備知識を得ないように努力しています。演奏する曲のCD等もなるべく聴かないようにしています。
 今回はドビュッシー、フォーレともにピアノ譜を基にしています。楽器はほぼ一切使わずに、譜面上での作業+ノーテーション・ソフト(シベリウス)での作業となります。シベリウスには書き間違えが無いかチェックするために〈プレイバック機能〉もついているので、昔に比べればずいぶんラクなのではないでしょうか。

ーー留学中のベルギーでの作業だったんですよね? 作業姿はパソコンに向かって音符データをいじっているかんじですか?
橋爪:
外見的にはそうですね(笑)。ただ音としては、ピアノ譜の音をそのまま割り当てて行く訳ではなく、いわゆるオーケストレーションをマンドリン・オケの為にほどこしていく感覚です。
 もちろん作曲家の意図を参考にする為に、オケ版の楽譜、録音はチェックしながらの作業になります。
 ですがなによりも一番最初にするのは、さっきの話と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、オリジナルのピアノ版をいくつか聴き込んで曲の方向性を把握することです。
 個人的に「ピアノ曲を演奏すること」はオーケストレーションをすることと凄く似たことだと思うのですが、残念ながら当時のベルギーのアパートにピアノがなかったので、自分で弾くことはできませんでした。夏休み中で学校もしまっていましたしね。

ーー今回の2作品に対する、アレンジ前の印象というか感想を教えてください。
橋爪:
「スコットランド〜」はマンドリンでほんとに弾けるのかな、、というのが本音でした。特に最初は指揮なしのアンサンブルでやると聞いていたので。
「エレジー→」は、メロディー・メーカーとしてのフォーレの魅力があふれる名曲だなというイメージをもっていました。

ーースコトランド、エレジーとも、演奏された「鳴り方」は、楽譜を仕上げた時点でのイメージと、どのくらい近くてどのくらい離れているものでしたか?
橋爪:
まだまだ経験不足なので、トレモロを使わない部分の響き方がいまいちつかみきれていないなと思います。その辺は適切にリベルテの皆さんや鷹羽さんに修正していただけたので、気付いていないところも結構あったりします。

ーー「エレジー」では、チェロがバイオリンオケの場合と同じ。しかし管がすべてマンドリンまたはマンドロンチェロで奏されていますよね? で、オリジナル(バイオリンオケ)と聴き比べていないのでわかりませんが、すべてのバランス、入ってくる音のトレモロの音が「合っている」ように聴こえました。原曲はどうなんだろう?とかいっさい思わず曲に集中して聞かせていただけた、というか。
橋爪:
そういっていただくと嬉しいです。後述しますが、本当にマンドリンオーケストレーションを目指しました。
「エレジー」は割と短期間で仕上げたんです。最初に誤解のないように書きたいんですが、最初からヴァイオリンチェロで弾くことを前提に書きました。だからもしマンドチェロで演奏される為だったらこのようなアレンジにはけっしてならないことは強調しておきたいところです。
 なるべく自然に響くようにコントラバスにはかなり気を遣いました。ソリストと唯一同系統の音ですからね。
 なんといいますか、とにかくトレモロの一種の〈暴力的な部分〉をチェロの迫力と共存させたかったので、なるべくトレモロを減らしました。
 そして、逆にトレモロの〈心地よい歌い方〉を生かす為にマンドリンのソロ単打と、アンサンブルのトレモロのコンビとかをやったり。この部分ではわりと心地よく響くようにできたのではないかと思います。
 あとそういうチェロとの噛み合わせを重視することでソリストが乗りやすいような空気を作ることにつながっていたらいいなと思うのですが、そのへんの結果は演奏者ご本人に訊ねてみないとわかりませんが・・・。
 この曲に関してはピアニズムはほぼ意識せずに書いています。つまり本当にマンドリンの曲であるかのように(自分では)仕上げたつもりです。
 オリジナルと比べるとどうなんでしょうね、、同族楽器が伴奏していることで統一感がでることは一つのメリットですが、違うマンドリンだからこそできた音楽もあるんじゃないかなと思います。あえて良いと思う点ばかりあげましたが、全て自分の意図であって、それが成功したかどうかは今ちょっと自分では判断できませんが。

ーー「スコットランド」のほうは、いかがですか? 私は若き日のドビュッシーの作品が発掘され直したような感覚で聴かせてもらいました。まだまだアンサンブルの可能性が聴こえて面白かったです。編曲にしても、オケの鳴らし方にしても。物足りなかったのではなく、その逆で、充足しながら可能性が見えているというか。
橋爪:
こっちの曲はどちらかというとピアノ版とオケ版のいいとこどりをしてしまったような気はしますが、やはり基本的にはピアノ版を基盤としています。
とにかくオリジナルが二台のピアノですし、音数が多いので、音のチョイスがなかなか難しかったです。マンドリンオケは6パートしか無いですしね。
 解決策の一つとしてギターを2パートにわけてあります(途中、後半3:10あたりからなど)。ギターの生かしがいがあって楽しかったと同時に凄く悩む所が多かったですね。
 そのせいで多分マンドリン曲の中ではかなりギター・パートの難易度が高い曲になっていると思います。とにかく音数が多いので、そこに目がいってしまって、この曲はよりピアノ的な良さをマンドリンに生かす作業に没頭してしまいオーケストラ的に広げていこうという感覚はあまり持てていなかったなというのが反省点です。

ーー聴き返すとなおさらそう思うところが多いのですが、「あ、ここ、弾きたい」というフレーズがあちらこちらに顔を出しますよね。
橋爪:
気をつけていたのは、さっきの話と少しかぶるのですが、やはりトレモロですね、最初のイントロの部分もそうですが、この曲に関してはトレモロを減らすことで逆にトレモロを弾くときに思いっきりフラストレーションを開放できるような作りにする意図がありました。
 難しかったのはトリルの扱いですね。やはり高速でトリルをいれると、一回いっかいのアタックと左手の押弦のタイミングが合わない、つまりレガートになりづらいので、リベルテの皆さんと一緒に開発したのですが、デヴィジョンして同じパートの中で二つの音を弾いてもらってトレモロのはやさを変えることでトリルのような効果を出してもらいました。

ーーいろいろ深い話を聞かせていただいたが、やはり橋爪さんのオリジナル作品も聴かせていただきたいですね! 近いところでは2月、そして4月に公演がありますね。楽しみです!
橋爪:
ぜひ聴きにいらしてください!

【橋爪皓佐作品演奏会情報】
2/18:マンドリンヴィルトゥオーゾの集い~越智敬先生記念演奏会~(詳細→
4/22:8人の作曲家の書くマンドリン曲の初演演奏会

【橋爪皓佐氏連絡先】

FakeSky -official website of Kosuke HASHIZUME

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