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ニュース マンドリン演奏会報告

メトロポリタン・マンドリン・オーケストラという音楽のパレット(MMO-TIMES5)


 第22回演奏会を前に、今年メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ(以下MMOと表記)の動向を全4回にわたって「MMOタイムズ」として記事を作成公開した。その集大成=本番が9月19日東京・四谷の紀尾井ホールで行われた。(撮影:かえるカメラ)

 メトロポリタン・マンドリン・オーケストラのおもしろいところは、プロの指揮者が、ゲスト指揮者としてではなく、メンバーであるかのようにメンバー全員とともに音楽を作り上げていくところにある。団員の絶大な信頼を得た指揮者、小出雄聖氏の指揮、その棒のもとに真摯に音楽を作り上げていくオーケストラのようすを、今回本番を入れた計4回取材してそう実感した。
 音楽を作り上げることは苦しくもあり、しかしその先にある楽しみ、完成した作品を自らの手で作り出したという喜びと充実感は格別だろう。プロ音楽家がその場を共にしているということは、おそらくその苦労の幅、つまりそれは喜びの幅でもあるが、それを信じられないほど大きくし精度を上げていく。この感覚を共有することの素晴らしさは、言葉ではつくし難い。傍で見ているだけで、その錬金術のような変化はおもしろい。
 加えて彼らは、多くの演奏会でクラシック音楽の一線で活躍している作曲家に作品を委嘱し演奏してきた。だれも演奏したことのない未開拓の地平を自ら切り開くことの難しさと面白さ。これも体験しないとなかなかわからない感動が待っているはず。これを彼らは毎年実践している。
 さて今年は?

 今演奏会では全4曲。響きの上でたいへんカラフルなプログラムを組んで挑んだ。

 2008年にMMOが湯浅譲二氏に委嘱した作品「エレジイ・哀歌」は、作曲者本人によれば「説明不要、ただ、聴いていただければ幸い」とのこと。あえてひとこと記せば、ひりひりする和声による鎮魂歌。こういうレトリックや文学風表現は嫌われるところかもしれないが、その和音に身を浸していると、あっという間に終わってしまう。長さを感じさせず、一瞬にして吹き抜ける哀しみの耳心地は、モーツァルトのようだ、と個人的には感じた。

 牧神の午後への前奏曲(ドビュッシー/笹崎譲編曲)は、編曲者笹崎氏が、直前ツイートでこう書いていた。
「編曲前に自分で分析。いくつかの推論を導き、オーケストレーションに反映しています。管楽器の息継ぎの都合を考えなくてよいこともあり、楽曲に忠実な表現が実現しやすいメリットを感じています。また、ソロ楽器の配置はちょっとだけ変わっているかもしれません。」
 それがどこに使われたのか? どのような効果を出したのか? 楽譜片手にじっくり解説してほしいところだ。どのオケでも再現しやすいのだろうか? 冒頭のフルートのライン、クラリネットの置き換え方、ヴァイオリン、ヴィオラの振り分け方、鳴らし方(弾き方)などなど、いたるところにアイディアが充満している。これは、音だけを聴いていてもなかなかわからない。今回撮影させていただいたビデオ映像で追いかけてようやく気がついた点のひとつだ。たとえばフルート/クラリネット・パートは、フレーズ毎に、異なるポジションで演奏し分けたりダブらせたりしている。ステレオフォニックな効果というより、音色と聴こえ方で効果を上げている。「ちょっとだけ変わっている」どころではない。同じマンドリンのトレモロなのに、明らかに陰影のパレットが増えているのだ。

 シベリウスの交響曲第4番より第3楽章(笹崎譲編曲)は、最近のMMO、定番といってよいシベリウス作品の中では渋い=通好みのセレクトだ。
「1人の作曲家に焦点をあて、時間をかけて演奏メンバーの理解度・共感度を上げていく、というアマチュアだからこそ可能なことを目指している」。
 ただ、編曲上、時間をかけた成果は、一瞬にして過ぎ去るステージ演奏だけでは、どうしても届きにくい部分かもしれない。

 弦楽四重奏曲(ラヴェル/笹崎譲編曲)
 リハーサルのわりあい初期の頃と仕上げ近くで取材を通じ聴かせていただいた関係もあり、ステージがとても楽しみだった。
 細かな編曲上・演奏上のポイントは、MMOレポートを読み返していただくとより鮮明になるはずだ。全楽章、面白かった。
「ラヴェル自身が弦楽四重奏曲のオーケストラ版を作らなかったのは、オーケストラでは多少大げさになりすぎてしまうと考えたからかもしれません。この点、マンドリン・オーケストラでは、心地よい関係になりそうです。」(同直前ツイート)
 それに続けて笹崎氏は「この曲で獲得した語法を拡大して新しい曲を作り上げる方向に向かったのではないか。つまりこの曲は後の傑作『ダフニスとクロエ』などの種子である、という捉え方でしょうか。」と言う見方を示した。
 ラヴェルにしても、また、モーツァルト、ベートーヴェンにしても若い頃の作品には、屈託なく、その種子がある、という聴き方を、個人的にはしてしまうが、そうしたおもしろさ、シンプル(あるいはストレート)だけど、大きな編成ならではの演奏効果であったり、またその逆に大編成だけど音の仕組みが見えるようなおもしろさであったり。そういったことを含め、今回MMOは演奏してみせたのだと思う。それは、音楽の鳴らし方を考えるとき、作曲家の本質まで迫って音楽を解体し直すところから出発する、このオーケストラだからこそできる試みだと思う。しかも、それがトライアルに終わらず、演奏会毎にそのアプローチの成果を高めているように感じる。メンバー全員がそういう音楽の作り方に魅力を感じ、おもしろがっているからだろう。

 「マンドリン・オーケストラで演奏することによって、原曲とは異なった魅力を引き出せる作品だけを選び出すこと」を編曲作品の選曲テーマに掲げ、団のポリシーとして、これに賛同して集まったメンバーによる集団だからこそできる音楽。なにも難しいことではない。「音楽が好き」と「マンドリンが好き」が合体するとこうなるというひとつの答。ここにマンドリン合奏の醍醐味と明確な未来が見える気がする。

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