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ギタリストに聞く ギター演奏会報告

3人のギタリスト×10弦ギターという可能性=酒井康雄・斉藤明子・岩永善信。


「華麗なるギターの響演」。クラシック・ギターの名手3人によるコンサートが名古屋(6月28日(火)・名古屋・伏見電気文化会館 ザ・コンサートホール)と東京(7月1日(金)・古賀政男音楽博物館 けやきホール)で行われた。ギタリストは酒井康雄・斉藤明子・岩永善信。事前情報では3人による「展覧会の絵」が聴き所、とは聞いていたが、これは強烈に印象的な内容だった。

 まず、記憶にある主なパートのすべての旋律が再現されていたように聴こえた。これがびっくりであった。そして「ギターでは無理なのでは?」と思っていた鋭いスタッカートのトランペットやサクソフォン、トロンボーン、またフルートなど主要旋律が管楽器であるところをどのようにカバーするのか? 管だからこそできる超快速パッセージはどうなるのか? また弦楽アンサンブルのグリッサンド的な早いユニゾンもどうなるのか?
 すべては余計な心配だった。三人とも当たり前だけど、指先のテクニックがすごかった。すぐに心配が解けた。というより心配したことを恥じた。そのあとは音色や世界観の創造性の問題だろう、と聴き進む。弦の、3人が弾くギターの音で、新しい「展覧会の絵」が生まれている。その瞬間に立ち会っていた。そう思った。もちろん、他の楽器の音色がほしいと思う瞬間は、ついに最後までなかったことはいうまでもない。

(←クリックするとスライドが始まります)
 プログラムに沿って始まり、酒井/ 斎藤によるデュオ、岩永/斎藤のデュオ、そして岩永/酒井のデュオ、と、それぞれこれだけで聴きごたえ十分なプログラムだったのだが、ハイライトはやはり3人の10弦ギタリストが同時にステージに並んだ「展覧会の絵」。弦の数は合計30弦。単純な話ではないのは分かっているが、とりあえずふつうのギターが6(弦)だからその6で割ってみる。すると答えは5。3人で5人分の演奏ということになる? 実際には、ひとりが3パート以上、オケに即して考えると、最低でも弦6-10人程度分プラス、時に低音域、時に管のパート、なので、15人から20人ぶん演奏を受け持ってたのかな、と思う。となると、自分のパートもたいへんだが、自分以外の音を確認し続けるのもたいへんなはず。 そのあたりを、後日、岩永さんに聞いた。

◎岩永さんに聞いた話
——以前から三人はお互いのことを知ってたと思うのですが、具体的にステージをともにしたのは何回目ですか? 初めてですか? また弾き終えての率直な感想を教えてください。

岩永:今回が初めてです。正確にいうと、東京公演は2回目の本番だったということです。自分の感想としては、細部まで刈り込めていない所は多々あったとは思いますが、これくらいの編曲があれば、トリオとしてこの規模の曲を弾くという事に対して、新鮮に思ったし、いろいろな可能性も感じました。

——各パートの負担というか分担ぶんは、全体を通すと同じくらいなのかな、と、聴きましたが、いかがだったのでしょうか?

岩永:パート分けは僕がしましたが、3人とも普段ソリストとしても活動している人達なので、1st、2nd、3rdを随時入れ換えて調弦なども考慮しながら、出来るだけ3人が同じくらい表に出られる様に考えたつもりです。

——その中で、岩永さんが演奏上、一番気を遣ったのはどのようなことですか?

岩永:自分としても今までギター・デュオしかやったことがなく、トリオは初めての経験でしたが、最初に合わせてみた印象としては、デュオはソロの延長として、本番では相手の空気を感じ取って、その時の直感でやれるという風に思っているのですが、トリオで「展覧会の絵」のような規模の物をする場合は特に、3人が同じ方向を向いてないとバラバラになるような気がして、最初に合わせた後は、スコアとして楽譜全体を頭に入れる事に多くの時間を使いました。
 特に1番気を遣ったのは3人が同じ方向を向いて一つの音楽を作り上げるという事でしょうか。10弦の方がより複雑になるという事があるにしても、6弦でも10弦でも基本的には同じだと思います。

——もう少しそのへんのことを聞かせてください。右手各指の音色やアーティキュレーションへの気配りというか使い分け。聴いていてスリリングであり、カラフルであり、オケの音が、あまさず鳴っているようにも聴こえました。演奏ポジションではどのように聴いておられたのでしょうか?
 それと、Part分けはについて、もう少し解説していただけませんか?

岩永:編曲者の川潟さんは、オケ(ラヴェル編)のものを参考にはしているものの、あくまでも基本的にはピアノ譜からの編曲だと言ってますし、僕の場合も、オケで2,3種類のものを聴いて、ラヴェルはこの様な楽器を使って色彩感豊かなオケの曲に編曲したという事は大体頭には入っていますが、3人で合わせる時は「ここではこの楽器のように」というようなオケ的な発想ではなく、「編曲された楽譜を1つの音楽にする」という方向性でやってきたと思います。

——あのような作品の演奏経験は、多弦ギターの可能性、多弦ギターによるアンサンブルの可能性も、岩永さんの中にまた新しくビジョンが開けているかもしれませんよね?

岩永:具体的には何とも言えませんが、今、川潟さんはベートーヴェンの田園の編曲を半ばまで書き終えているそうです。僕もグールドのピアノでの演奏も大好きですし、ソロで出来ない良い作曲家のすばらしい作品には触れてみたいと思っています。

 今回の編曲を手がけたのは川潟 誠氏。大阪出身で、15歳でギターを始め、岩永氏に演奏法を学んだ。第12回ギター音楽大賞グランプリを受賞。その後大阪を中心に活動されているとのこと。二重奏、三重奏、アンサンブルなどの編曲も多数手がけているという。また、岩永さんを招いて年一回講習会を開催、友好を温めているとのこと。
 願わくば、簡単に弾けないことは分かっているが、ぜひ楽譜を眺めてみたい。そして、ぜひまたどこかのステージで、こうしたさりげないけれど、「ギター革命」と呼びたくなるような画期的アレンジを聴かせてほしい。

■公演プログラム
カプリッチョ BWV992(J.S.バッハ/川潟 誠編)
  〈三重奏〉岩永善信 /酒井康雄 /斎藤明子
「10 kleine Duette fur 2 Celi」(中村洋子)より
  〈二重奏〉酒井康雄/ 斎藤明子
プレリュード、フーガとバリエーションOp18(J.S.バッハ/川潟 誠編)
  〈二重奏〉岩永善信 /斎藤明子
バレエ音楽「ロミオとジュリエット」(プロコフィエフ)より
  〈二重奏〉岩永善信 /酒井康雄
組曲「展覧会の絵」 (ムソルグスキー/川潟 誠編)
  〈三重奏〉岩永善信 /酒井康雄 /斎藤明子

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