ギターの時間、2009年11月27日号 Ricardo Sandoval & Mathias Collet Interview
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Collet&Sandoval

リカルド・サンドバル今年の来日公演は大阪国際マンドリンフェスティバル出演を皮切りに関西〜東海〜関東で全12回となった。じつはほかにもプライベートなパーティー公演などもあり、じつに滞在20日間、ほとんど演奏に明け暮れる日々だった。東京公演は、全行程の終盤。疲れも見えそうなはずなのにじつに元気だ。ギターのコレーはフランス人。意気投合しているとはいえ、その細身の身体でもつのか?とかってに心配していたが、彼もまた見かけに似合わないタフガイなのだった。市ヶ谷公演の前日、絃楽器のイグチを訪ね、リハーサルを終えたばかりの二人にインタビューした。コレー君はフランス語、サンドバル氏もまたフランス在住のためフランス語が得意。が、英語での質問に、丁寧に応えてくれた。二人とも紳士だ!

(interview&photo:Kazutaka Ebe/transration:M.Sakamoto)

 最初にベネズエラの音楽とは、南米の中でどんな位置にあるのか? どんな音楽なのか? 素朴に疑問を持つ人のために、YOUTUBEで彼らの音楽をのぞき聴きしてみてほしい。そこには現在のベネズエラ音楽の伝統と現代のセンスがちりばめられているのだ、とサンドバルは言う。どこまでが伝統? またどこからがモダン? まず感じるのはワクワクする躍動感。そして爽快感を伴うスピード。その躍動は、どうもかなりの部分を占めるアドリブ的な演奏をが担っているように聴こえる。ジャズのメソッドが入っているの? 一方、バラードではメランコリックな余韻を伴う新鮮なメロディー。  サンドバル&コレーは、世界を股に、演奏旅行を続けている。いわばベネズエラ音楽を広げる大使、宣伝部長でもある。ブラジル音楽、アルゼンチン音楽、チリ、アンデスの音楽に継ぎ、ベネズエラ音楽の波が、今、始まっている。 Sandoval:このインタビューはなにに載るのかな?

ーーWEBマガジンです。「ギターの時間」といいます。よろしくお願いします。最初の質問です。
あなたの演奏する作品のなかに占めるアドリブの割合はどれくらいあるんですか?

Sandoval:僕は基本的にはクラシックのミュージシャンとして名前が通っているんだけど、民族音楽〜ベネズエラの伝統音楽の演奏家としてもずっとやってきた。だから音楽を勉強するときは常に両方を意識してやってきたので、インプロヴィゼーションも当然、僕らの音楽のなかでは重要な位置を占めているんだ。毎日その練習もやっているし。
 ひとつの曲で同じような繰り返しがあっても、まったく同じことをやることはほとんどなくてね。場合によっては、まったく新しい曲みたいな感じになることもあるよ。まあ、たいていはメロディーは変わらず、それ以外のところは決めごとがない。そういう感じなんだ。
 あとはハーモニーをリハーモナイズするくらいかな。マティアスも同じアプローチ。だから気が合っているんだと思う。

ーーえ? そのベネズエラの伝統音楽にはインプロビゼーション〜即興演奏の要素がけっこうあるということなんですね?
Sandoval:そう。ラテン・アメリカでは人生そのものがインプロビゼーションなんだ(笑)。音楽ではジャズのやり方を取り入れているわけではないけどジャズ的な要素もあるといえるだろう。ともかくインプロビゼーションというのは重要な要素なんだ。音楽は生き物だから、譜面を見ながらいつも同じように演奏するという者ではなくて、一応曲は憶えてやっているけれども、ときどき忘れることもあるし(笑)。そうすると、忘れたところは、まったく違うことを考えて演奏することもあるんだ。そういう綱渡り的なことを日常的にやっていて、でもそれも人生=インプロビゼーションみたいなことじゃないかな?

ーーとすると音符を書き込んだ楽譜というのは、ひょっとしたら、ないんでしょうか?
Sandoval:うん、使わない。作曲するときはメロディーとハーモニー(コード)のメモだけ。あとは最初に自分のパートを演奏しながら聴いてもらい、憶えてもらいながら、次はマティアスが弾いてみて形を整えていくんだ。
collet:あるいは、二人でハーモナイズしてみたり。どっちにしても色彩感というのはその都度いろいろアイディアとして出てくるので、思いつくたびに変えていくこともあるしね。ときには転調したり。

ーーああ、そうなんですね?
Sandoval:もちろんスコアにした曲もあるよ。一枚目のCDではピアソラ、サティを取り上げた。これは完全にかいた曲だった。ほかにもそうした曲はあった。今回もアグスティンバリオス。アントニアラウロの作品は半分くらい譜面になっている。でも残り半分はインプロビゼーションというスタイルだ。

ーーさっきのメモというのは、イントロ〜バース〜間奏といった構成だけを書き込んだ構成譜〜英語で言うリードシートというようなことですね?
Sandoval:うん、それはある。でも、やりたいようにやっているんだ。基本的にはメロディーとコードだけの譜面が好きなんだ。今回ブックレット用に自分たちの演奏をアレンジ譜として起こしたことがあったんだけど、同じ繰り返しはまずないから、すごくたいへんな作業になってね(笑)。だから他の人にとって実用的かどうかわからないな。

ーーコレさんのギターパートはかなり複雑な演奏シーンが続きますが、あれはどうやって憶えているんですか?曲数もすごいじゃないですか。
Collet:だいたいはまずメロディーを憶えたら、伴奏を含め二人で作っていきます。だけど速いテンポでコード進行がめまぐるしく変わるようなときは、違うコードを弾くこともあるし、カウンターのメロディーも、演奏の都度メロディーに応じて即興的にいれていくこともあります。
 まあ、コード進行はだいたいは基本的に同じことをなぞっているけど、即興的に曖昧なままのコードで弾くということもありますね。いずれにしても、メロディーは常に意識していますが。
Sandoval:だから曲を憶えるというのは一音一音憶えるというよりも曲全体のイメージをつかんで頭に入れておくというのが大事だと思う。譜面を間違えずに正確に弾くよりも、全体のイメージをきちんと頭に入れてなければ良い演奏にはならないんだ。
Collet:つまりいくつかの部分はだいたいきまっているし、ゴールもきまっているけどそこへ行き着く行き方はいろいろで。その範囲には遊びの要素もあって自由に演奏しているんだ。といっても完璧に自由というわけじゃなく、ところどころ合流したり、と。

ーーそういうスタイルがベネズエラの音楽にはたくさんあるということですか?
Sandoval:そう。この手の音楽は、インストもあれば歌ものもあるし、伝統音楽〜民謡などを自由にアレンジしたモノもある。かと思えばかっちりと一音一音アレンジしている作品もあるけどね。ともかく今ベネズエラ音楽は、たとえば30年前と比べると、すごく見直されてきていて、きちんと評価されているよ。

(続きます)


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