ギターの時間、2010年10月17日号
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ーー合奏の中でお互いの音の確認ができるというのは、基本とはいえなかなか難しいことですよね? いろんな感じ方があるでしょうし。それをまとめていくのは相当難しいのでは?

佐藤:僕は、マンドリン・オーケストラというのは、管弦楽のオケみたいな発想でなんでもできるよね、というふうにとらえています。わかりやすくいえば、「あ、自分はいまホルンをやっているな」とか「フルートをやっている」という雰囲気で演奏すれば、できるはずですね?  それを、奏法やら表現、トレモロを何回、というようなことで使い分けようとすると難しいことになっちゃうんですけどね。そうではなく、「あ、ここはオーボエの音でやればいいんだ」とかね。

小出:佐藤さんが言ってることはとても大切な感覚で、例えば、原曲のスコアにホルンが「フォワ〜ン」と吹いてほしいところがあったとしたら、通常のオケでは誰もが慣習的に発音のイメージはわかることだし、もしわからなくてもtuttiの中で数回吹けばイメージは自ずと確定できますよね。それが勝手にできてしまうのは、楽器の機能や音の特性を前提に作曲家がスコアを書いているからであって、それをマンドリンオケで演奏するときの決定的な違いは、そのような自己調整作用がオートマティックには働かないことなんですよ。
 だからここのオケでは、そのような豊かなイメージを全員が持てるようにしておいて、それをマンドリンやギターで表現するための具体的方法論にまで踏み込んで、笹崎さんや佐藤さんが時間を掛けてみんなを引き上げている。「フォワ〜ン」と「ドーン」はこんなに違うんだよ、っていうふうにね。

ーー音の立ち上がり方と減衰の仕方ですね?  もちろん音色も。

小出:そう。さっきの練習でも後半部分でホルンの音色のような、ということを話題にしていましたが、全員がそのホルンの音色というのをその場で共通してイメージできればいいんだけど、そこがなかなか時間のかかるところです。

 なにしろオリジナルだったら、作曲者も指揮者も意識しない間に、書かれている譜面から「“自動的に”その音が鳴る」。それによってまとまってしまう。

笹崎:オケの場合、そこが逆に怖いんですけどね。

小出:笹崎さんの楽譜はまったく違うアプローチをしているんですよ。構造をとらえて、そこから完全に組み立て直している。そこはもう想像力というか、面白さの醍醐味でしょうね。こういう編曲はたいへんな作業だと思いますが、でも笹崎さんに言わせたら、「いや、作品を調べていったらこうしかならない」と言うんですよ。ここが笹崎さんの凄いところです。

笹崎:笹崎:小出先生が言うように、オケの曲というのは勝手に鳴ってしまう。そこが逆に怖くて。作曲家の頭の中で本来鳴った音、望んだ音が、ほんとうにその楽譜から自動的に鳴るオケの音なのか? これは場面場面で検証しなければならないと思うんです、
 僕は、作曲家が指定した楽器でさえも有限の中からの選択なので、求めたいイメージがその楽器の能力の極限にあったり、あるいはその外にあったかもしれないと考えるんです。作曲家の頭の中で本来鳴った音、望んだ音は、その楽譜から自動的に鳴るその楽器の音と違う場面も多くあるのではないかと。

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第21回演奏会プログラム

会場:紀尾井ホール
指揮:小出雄聖
マンドリン独奏:佐藤洋志
曲目
o クロード・ドビュッシー(笹崎譲編曲)/歌劇「ペレアスとメリザンド」より抜粋
o モーリス・ラヴェル(笹崎譲編曲)/演奏会用狂詩曲「ツィガーヌ」
+ (独奏マンドリン:佐藤洋志)
o ジャン・シベリウス(笹崎譲編曲)/交響曲第6番