マンドリンアンサンブル
ビアンカフィオーリ
第18回定期演奏会

at 東京第一生命ホール(2009/07/26) 撮影:東 昭年

◆演奏曲目
マンドリンオーケストラの為のじょんがら抄(藤掛廣幸)
追憶 (P.シルヴェストリ)
組曲「スペイン」 (S.ファルボ)
ポルカ「雷鳴と電光」 (J.シュトラウスU/石村隆行)
歌劇「影」大幻想曲 (U.ボッタキアーリ/松本 譲)


 昨年、第17回定期演奏会前に、指揮を務める田口俊太郎さんに、このマンドリンアンサンブルの沿革について聞いたとき、こんなことを話していた。ちなみに田口さんも同志社大学OBである。
「創設の発端は、現在代表を務める山本一俊さんが、マンドリン活動を再開したとき、“東京には自分が学生の ころにやったイタリア音楽を中心にした楽団が少ない。音楽作りのレベルも納得のいくところがない。”と思ったそうです。山本さんはこのことをご自身のマンドリンの先生にあたる松本 譲さんに話したところ、『それなら自分で団体をつくればよいじゃないか。』と団体立ち上げを勧められた。それがきっかけとなっています。
 東京で、同志社大学マンドリンクラブOB中心の集まりを作ろうというよりも、『関西のノリ』でイタリア音楽に真剣に取り組みたかったということです。」

 現メンバーは、団体の意図に賛同する希望者も大勢加入しており老若男女、常に総勢100名前後が在籍するオケとして運営され、東京にあって、毎年1回の定期公演を通じて演奏されるマンドリンによるイタリア音楽の世界は、ファンをじわじわ広げている。
 今年は、このアンサンブル創設に重要な役割を果たした松本 譲氏の13回忌ということもあり、また気合いの入ったプログラムとステージを展開した。

 この松本 譲さんという方は、甲南大学をはじめ京都教育大学、聖和大学、梅花女子大学、池坊短期大学など関西を中心に多くの学生クラブの指導を続ける一方、1996年亡くなる直前まで、マンドリンを核とする多くの団体等の旗揚げにも関わっている。なによりもマンドリンのためのオリジナル作品、アレンジ作品を数多く残し、演奏プログラム提供や、技術指導を通しマンドリン音楽の普及に生涯を捧げた・・・といって良さそうな人。
 今回この文章を作るにあたってざっとネットで情報を漁って初めて知った。
 ビアンカフィオーリにとって松本先生は創設時の重要人物としてだけでなく、結果として全メンバーが、直接間接に指導を受け今に至っていると言ってよいようだ。アンサンブルの代表を務める山本一俊さんをはじめとして、演奏者、指揮者としてこのアンサンブルに欠かせない田口俊太郎さんもその愛弟子の一人だ。
 松本さんの作品は甲南大学文化会マンドリンギタークラブHPに詳しい資料が公開されている。聴いてみたい作品リストがまた増えた。
   その魅力的なタイトルが並ぶ作品リストから今回選ばれたのは、ボッタキアーリ作曲の『歌劇「影」大幻想曲』の編曲作品。たいへん聴き応えのある30分近い大曲。編曲作品としてもたいへんな労作だ。
 この作品をプログラムのハイライトに据え、前半は藤掛廣幸の和のテイストを盛り込んだ「じょんがら抄」、シルヴェストリの小品「追憶」でひと呼吸置き、マンドリンのための作品、組曲「スペイン」。作曲者ファルボは、20世紀初頭、マンドリン近代化の旗手と言われているイタリアの作曲家。そのイタリア人から見たスペインが音で綴られる。ここで第一部終了。
 二部は快速、シュトラウスのポルカ「雷鳴と電光」 でスタート。編曲は演奏家であり指導者でもある石村隆行。現マンドリンを取り巻く音楽界をリードする一人だ。その石村の精緻なアレンジを聴くというより、 今回はビアンカフィオーリによる音のスポーツ!ハジける演奏は音量もすごい。ひと公演の中で、あれもこれも、と盛り込む難しさも少し感じさせながら、それでもまとめてしまう力ワザもこの人たちの魅力かも。
 そして『歌劇「影」大幻想曲』。  
 
 アンサンブル ビアンカフィオーリはプロ集団ではない。公演チケットも無料だ。しかし、この無料にはわけがある。最初は有料でスタートした。しかし・・・、
「設団後まもなく固まったビアンカフィオーリのスタイルとして、『マンドリンという楽器とイタリア音楽が大好きで、合奏が楽しくて仕方がない。その結果、ちょっとウマイ。』というのがあります。
 だから、『自分達が楽しんでいる姿を観てもらうのにお金なんていらない』『楽しむ分は自分で払います』という意気の現れが、“無料コンサート”なんです。だから“無料”にはこだわりがあると同時に、誇りを持っているのです。
 確かに有料と無料で会場費が大きく異なることも無料化したきっかけのひとつですが、数回無料の演奏会を行なった後、そういった思いから、以後、あえて無料にこだわっています。」(田口)

 演奏会に足を運ぶと、たんに愛好家たちによる発表会とは別次元の、熱い意気込みを感じて圧倒される。演奏自体への注文はたくさんあった。主題が聴こえにくい、高中低域楽器のせっかくのテクスチャも聞き取りにくいのではないか? ダイナミクスが乏しいのではないか? など。しかし、第一部の最初の曲から感じたそれらの印象は、奏者たちのノリが尻上がりに良くなっていくのと歩調を合わせたように高まる熱気とともに、ひとつの公演,パフォーマンスとして、「これもアリか」、と納得させられた。
 
 作品はどれも難曲だったハズ。楽しむこと、楽しませることだけを優先していたら、こういう選曲はないだろう。
 ステージで田口さんは自分たちのことを「マニアックな集団」と形容していた。熱狂。マンドリン熱中時間のひととき。その熱中時間を共有することの意義を感じるコンサートだった。
 オーケストラの配置はギターを中央奥に設定するという、あまり見かけない、いわばこれもマニアックなスタイルを採用していたことも印象的だった。歴史と人脈とマンドリン愛を受け継ぐこのアンサンブル。
 機会があったら、ぜひどうぞ!

ギターの時間 ・江部一孝)