(本編/撮影:かえるカメラ)
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このクラブの創立は1962年である。翌々1964年第1回目の演奏会を行い、以後、毎年1回定期演奏会を行っている。性格、方向を決定づけた作曲家・鈴木静一氏との出会いは第6回(1969年)のとき。今回の50周年記念演奏会ホームページに「合奏記」を寄せていた“紫芭siva”さんこと柴山明久さんが現役学生だった頃。以後、亡くなられるまでクラブと鈴木氏との交流は続き、氏亡き後も、生前に吸収された精神は脈々と継がれている。
哀愁あふれる叙情的な和声とメロディー、情景を鮮やかに音楽で語る鈴木静一の数ある諸作品は、いくつかの大学マンドリンクラブと密接な関係にある。この愛知学院大学マンドリンクラブもその重要なひとつだ。
さて、オープニングの「大学祝典序曲」。同大創立100周年を記念して鈴木静一氏に委嘱し、このクラブの第13回定期演奏会(1975年)で初演された作品だ。ファンファーレ・フレーズを鐘の音とともにマンドリンのトレモロが歌い上げる、記念演奏会開幕を告げるにふさわしい序章。それに続くメロディーが晴れやかな気分を盛り上げる。メインテーマには同大校歌がモチーフに使われている。指揮は松浦定男さん。颯爽とした指揮が、音楽をスタイリッシュに響かせる。
本編は4部構成。第一部はこのクラブの現在の技術顧問・作曲家、坂野嘉彦氏の代表作の一つ「R.S.第6集“月の記憶”(改訂版)より3楽章 トッカータ〜古代舞曲〜」、そして最新作「庭園植物図鑑」(委嘱作品)。日本庭園の植物をスケッチした作品という説明通り、スローモーションで眺めていく庭園の情景が目に浮かび、静かだが様々に表情を変えていく和声のグラデーションが心地よい。現役3年・古田寛明くんが現代音楽にも通じるこの浮遊するような表情を、繊細かつ、カラフルに作り出した。
第2部は鈴木静一作曲「アンデルセン童話による音楽物語“人魚”」。ナレーションとして登場した女優・小川千歳さんが物語を朗読していく。
これに前奏、伴奏という形で音楽がつけられている。マンドリン・オケには木管、ピアノ、エレクトーン、打楽器が加わる。さらに途中、随所で人魚姫の「可憐な哀情」をソプラノ(杉山梨恵さん)が歌うという編成。映画音楽、劇判でも仕事を残した鈴木静一作品の中で、音楽=演奏という枠を壊すことなく、かつステージ上で表現できるかたちとして残したこの作品は、作曲当時も今も、独創的だと思う。この作曲家が慕われ人気を博す理由のひとつがわかった気がする。指揮はOB・大塚 衛さん。
第3部は鈴木静一編曲作品でソロをフィーチャーした作品を集めた。ソロ(佐々木敏)による「“荒城の月”による狂詩曲」、オーケストラとソロ(竹内勝利)による「ツィゴイネルワイゼン」、オケとマンドリン2本(中島啓一、古田寛明)による協奏曲「ルーマニア狂詩曲」。
どのソリストも音がきれいなのにはびっくりした。4人中OBである3人はともに日本マンドリン連盟の独奏コンクール入賞者、ただ一人現役学生の古田くんも、その3人に負けない演奏家だ! 彼らが引っ張るこの50周年記念オーケストラ、ここまで触れなかったが、アンサンブルの音がともかくきれいだ。トレモロなのだけれど、トレモロを意識しない、というか。いや、トレモロ・アンサンブルによってしか創り出せないトーンなのではないかと思う。
その音で演じた第4部が「マンドリンの群れ」(ブラッコ)と「失われた都」(鈴木静一)。2作品ともに、このクラブの「定番」だ。久々にこれらを演奏するOBがステージには何人もいるという。指揮は、レポート冒頭に紹介した柴山明久さん。50周年記念ホームページのブログでは練習の様子やOBたちの仔細なレポートとともに、氏と同クラブが、いかに鈴木静一氏を慕い尊敬し、その想いがこのクラブを発展させてきたということに触れていた。
一人の作曲家が、大勢の音楽愛好家、とりわけマンドリンに集う人を熱狂させ夢中にさせる。こんな楽器、クラブはほかにないだろう。いや、あるかもしれないが、いくつかの大学マンドリンクラブの記念すべき演奏会に足を運んで、その都度そう思ってきたが、この愛知学院大学マンドリンクラブ(AGUMC)もまたそうであった。
想いが熱い! それがビンビン伝わる。
終演後のパーティーには学院長、学長、長らく顧問を務められた先生方も出席し、集ったOBの人数と熱気にびっくりされていた。マンドリン音楽は、もっともっと開かれていく使命を持っていると思う。
愛知県の真ん中で、乾杯するみなさんの表情を見ていいて、つくづくそう思った。この夜の乾杯は、次への第一歩を踏み出す合図であったと思う。
(レポート:江部一孝)
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