ーー佐古さんは、エリザベト音楽大学で佐藤さんの生徒さんだったんですか?
佐古:直接の師弟関係ではなかったのですが、ギターアンサンブルの授業を通して、指導していただきました。先生の教えや先生の背中が、今の活動の指針となっています。
佐藤:その頃から彼女がマンドリンに情熱を傾けている姿を見ていました。卒業後、ドイツで研鑽を積んで帰国しこれからマンドリンで世の中に打って出ようとその一部始終を見守ってきた私は、彼女と共にマンドリンの世界に一石を投じる事に俄然燃えて(萌えて)しまったのです。
ーー今回の企画は具体的にはどんなことから始まったのでしょうか?
佐古:きっかけとなったのはバスケスの作品です。
去年の5月末、佐藤先生から「曲を送るから来年あたりやりましょう」と嬉しいメールをいただきました。もともと、このH.バスケスの「マンドリンとギターの為の2つの作品」は、私の日本の師匠である川口雅行先生が委嘱されたもので、弟子の私がこの曲を弾かずしてどうするのか、という事でお声をかけてくださったようです。そこから、マンドリンの新たな可能性を追求する企画がスタートしました。
ーープログラム選定のいきさつをもう少し詳しく教えてください。
佐古:プログラミングは「従来のマンドリンとギターの響きを超えたものを生み出す」というコンセプトの元約1年かけて作品を選びました。
これまでのマンドリニストが取り組んでいないであろうけれども、他の楽器では有名な作品、ここではF.プロトのコントラバスの為の「カルメン幻想曲」やB.ゴダールのフルートとピアノのための「3つの小品の組曲」や、マンドリンとギターでこの曲やったらどんな音になるの?! というような作品、J.ボディの「アフリカン・ストリングス」やR.シャンカルの「魅惑の夜明け」が最終的にピックアップされました。
佐藤:以前はギターがそうであったように、演奏技術の達成の後に待っているのは、音楽性の追求と共にマンドリン奏者は旧態依然としたマンドリンの世界と戦わなくてはならないと感じました。演奏家は過去の享受とともにそれを時代に輝かせる道の探求をしなければならないからです。このコンサートの試みがその一歩になることを希望してます。
ーープロト、バスケス、ゴダールは馴染みがないのですが、どんな作品か教えていただけませんか。
佐古:プロト(Frank Proto:アメリカ人作曲家兼ベーシスト・1941-)の「カルメン幻想曲」は、あの有名なカルメン組曲が元になっています。しかし、ここでその和音がくるの?!とアッと驚くようなアレンジがしてあり、とてもカッコイイ曲です。
ゴダール(Benjamin Godard:フランス人作曲家・1849-1895)は、オペラ、交響曲、協奏曲、室内楽、歌曲など様々なジャンルで数多くの作品を残した作曲家です。「3つの小品の組曲」は、元々はフルートの曲でフランス人らしい軽やかで優雅なサロン風作品です。しかし、その中にも素朴さや滑稽さなどのスパイスも効いている作品です。
バスケス(Hebert Vázquez:ウルグアイ人・現メキシコ作曲家・1963-)の「マンドリンとギターの為の2つの作品」は、マンドリニストにとって超絶技巧の曲です。速さではなく、容赦ない和音が並んでいます(笑)。
ーー手に汗を握りそうですね!!
佐古:作曲家本人の言葉を借りると、「1曲目のDuelo(哀悼、悲しみ)は、激しい感情と疎外感の間を揺れ動く様を描いているが、それは喪失の痛みによって引き起こされたものである。日本音楽に対する私の共感がここには強く表れている。2曲目のToccataは長いギターの前奏の後マンドリンが加わってクライマックスを形作る。(CD:Pruebas de vidaのブックレットより)」という作品です。
1曲目は箏を彷彿とさせるトレモロとハーモニクスの掛け合いと、パッカーシブな部分の対比が面白いです。2曲目はロック調のテーマで、和音の絶妙な応酬が聴きどころです。
他に、エリザベト音大時代に佐藤先生と共演したJ.S.バッハの「2つのヴァイオリンの為の協奏曲」を各公演、その地元で活躍するギタリスト(佐藤先生の弟子達であり、私にとっては先輩と後輩)をゲストに招きお送りいたします。
新響地という名のとおり、これまで聴いたことのない新しい響きに溢れる時間をお届けいたします。
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