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演奏会報告

現代マンドリン作品、独、仏、伊、日それぞれのお国柄を堪能。アンサンブル・テスタカルド 第13回演奏会

(レポート:児嶋絢子/写真:ギターの時間)
スクリーンショット 0025-03-07 7.47.35 2013年2月23日(土)、少し肌寒くはありましたが、春を匂わせる気持ちの良い晴れ渡った空のもと「アンサンブル・テスタカルド 第13回演奏会」が幕を開けました。

スクリーンショット 0025-03-07 7.47.49 テスタカルド(以下テスタ)の定期公演に足を運ぶのは、私がドイツへ行く前ですから約7~8年ぶり!久しぶりのテスタの演奏、始まる前から胸の高まりを感じました。というのも、今回のいくつかの曲目は私の先生でもあるシュテファン・トレッケル氏のアドバイスをもとに選ばれたということもあったからです(私は仲介役をしました)。そして、テスタは常に新しい可能性への模索、挑戦、試み、と奏者だけでなく、聴衆をいまだかつて見たことのない、聴いたことのない世界に誘ってくれます。今回も期待を裏切らない、、どころかそれ以上の世界へ私たちは引き込まれていきました。

 プログラムですが、今回は3部構成と壮大で始まる前は長すぎるかな?とも思いましたが始まってしまえばさすがテスタ!!まったく飽きのない緻密に考えられたプログラム構成は、またもう一度聴きたい!という思いが自然と生まれてくるものでした。
 緊張した面持ちで幕を開けたDaniel Huschert (1977-)の「Canto」という未知の世界からの始まり。これは片岡道子氏(アンサンブル主宰)、テスタのために書かれた委嘱作品です。Cantoとは関東という意味で、文字通り関東7都県をモチーフにした壮大な作品です。ここはどこかなー?と想像しながら、もしかしたら作曲者の思惑とは違った想像をしたかもしれませんが、それもまたこの曲の面白さの一つだと思います。
 曲調は、聴く前は組曲形式なのかな? と思いましたが、県ごとに分かれているのではなく、オペラやバレエの序曲のような雄大な音楽でした。提示部は2つに分かれていて、1つは物悲しく、もう1つは早いテンポで何度も繰り返されるメロディー、展開をしてフーガへ、そして再現部へ。かなりかっちりと創られている音楽なのですが、耳にはとても自然に、流れるように県から県へと移行し自分も一緒にいろんな県や都を流れているような気持ちになりました。

スクリーンショット 0025-03-07 7.45.34 Sebastien Paci (1974-) の「Les Aris de rien とりとめのないアリアたち」ほかフランス歌曲にプログラムは続きます。Paci氏は片岡道子氏の古くからの友人でもあります。片岡氏は歌付きの曲が送られてくるとは想定外だったそうです。しかしこのプログラムにフランス歌曲が加わり、ソプラノ歌手の木村賀洋子氏のうっとりする歌声とアンサンブルの融和でなんともまた素敵な気分にさせてくれる、そんなひと時でした。
スクリーンショット 0025-03-07 7.46.32 さらに、優しい雰囲気であり時に熱情的な指揮を振るう鷹羽弘晃氏はフランスに留学されていたこともあってか、自然で優雅でこの曲に馴染んでいるように感じました。和声的には、様々な音楽スタイルがとられていて、この時代のこれ!というような感じではなく、シャンソン形式だったりドビュッシーを思わせる歌曲であったりと様々なスタイルでPaci氏の世界観が垣間見れました。

 休憩をはさみ第2部は、指揮者でもある鷹羽弘晃(1979-)「響(どよ)めきの研究 Study of tremor Ⅰ・Ⅱ」。
 Ⅰは以前演奏されたことがありますが、Ⅱはゲスト・プレーヤーのギタリスト・藤元高輝氏を迎えての初演でした。Ⅰ では、ボトルネックの使用や、片方が四分音低く調弦された独特な世界(四分音とは半音よりもさらに細かく分けられた音程で、ドとド♯の間の音、つまり通常ピアノでは弾くことのできない音程です」鷹羽氏解説より。)で音の「うねり」を見事に表現し、アンサンブルが織りなすうねりが重なり合い、新たな表現を感じることができました。
スクリーンショット 0025-03-07 7.44.51 そしてⅡへ続くギター独奏。客席後方から現れた藤元氏が弦を思い切りはじくところからの大胆な始まり、それに続く独奏。ギターの歪んだ音に呼応するアンサンブルは、シェーンベルクの月に憑かれたピエロを思い起こさせ、ピエロの訴えに呼応する月のようにも感じることができました。うねりから模索、さまよい、ギター独奏でうねりから光を探し、光のある方向へ進んでいく景色が目の前に広がりました。ぜひ目で見て、耳で聴いて感じとってもらいたいです。

 第2部では、Silvan Wagner (1976-) の「Chaconne」(委嘱初演)から始まり、さらにマンドリニストとしても有名なJuan Carlos Munoz(1965-) の「Sadoc」と、どちらもアンサンブルの魅力を存分に出し、和声的にも馴染みやすく解りやすい、軽快で楽しい音楽の時間を味わいました。

 今回2ステージ目となるギタリスト藤元氏を迎えたJavier Riba (1974-)の「Acerca de la Felicidad 幸福について」。この曲は私自身も2008年「EGMYO ヨーロッパ・ギターマンドリン青少年団体」のスペイン公演でマンドリンで演奏したこともあり、思い入れの強い曲。今回すごく楽しみにしていました。藤元氏の奏でる繊細なメロディー、素晴らしいテクニックそして若い力を肌で感じました。藤元氏を見事に引き立てたアンサンブルと融合し、音楽に酔いしれ、スペインでの風景を思い出しました。

 最後のプログラム、Rossen Balkanski(1968-)の「Rapsodia “ Vissani “ 狂詩曲ヴィッサーニ」はトレモロやffも多く、これぞマンドリン・ギター・アンサンブル!という感じで終演を飾るにふさわしく、カーニバルの中にいるような気持ちになりました。

スクリーンショット 0025-03-07 7.46.00 今回のプログラムは色々な国の新曲が多く、音楽だけでなく文化にも触れることができました。私たちが日々生活する都市、そして都市を形成する環境の中に、それぞれの国や地域の文化があり歴史があります。その文化、芸術、音楽は飽くことを知らない感性を求める場であり続ける、と演奏を通じて感じました。このような素晴らしい体験ができたことを嬉しく思います。

1 コメント

  1. ご紹介有難うございました。とても楽しく歌わせていただきました。

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