久保田孝氏とクボタフィロ・メンバーに聞く(2)インタビュー前編

「久保田 孝 傑作選」(2013.2.24定期公演)の見どころ聴きどころ
INTERVIEW-前編-

伝承と発見


ーーこの映像は12月初旬のものですが、昨年より大所帯になっている印象ですね?
大坪:メンバー構成は、今年(2012年)13人増えました。
ーーこの20年、そのときそのときの構成員でベストをつくされて来られたと思うんですが、今回は迫力の点でも期待できますね?
久保田
:人数が多いから迫力が出せるというものではないんですが、団員数、楽器が増えることのメリットはたしかにあります。
ーーそれから、在籍期間が長いメンバーを要するオケの大きなメリットのひとつに関して「繰り返し演奏するメリット」を以前上げておられましたね。
宮崎(コンマス、2nd.M):
同じ作品を長い時間をかけて練習できることは学生オケでは実現できないことですよね。
ーーしかも今回は久保田先生の作品だけで構成したプログラムですから・・・。
大坪:
「久保田孝作品集」という演奏会は、これまでにも4回やってきているんです。そのときは、その時点でやってきていない作品を取り上げてきました。が、今回はそれらの中から、そしてまだ取り上げて来なかった作品を含め、「傑作選」としてプログラムを組みました。
 前回の定期演奏会で来場したお客様からとらせていただいたアンケートで、いわば久保田作品の人気投票をとらせていただいたんです。そのデータを元にしています。
宮崎:同じ作品に対する経験がある人がオケの中にいるというのは、「積み重ね」ができますね。すると同じことに“熟練”していくだけではなく“新たな発見”があります。具体的には、経験者がいると、その作品が初めてという団員にも作品の概要が早く伝わります。
ーー言葉でも伝えられるし、なにより演奏で引っ張っていけるということですね。
宮崎:
そうです。それから「こういうところはまだ詰めていなかった」とか表現を細部にわたってより的確にしていくことができます。新メンバーも、より早くいっしょにそこへ向かっていくことができますし。
ーー「発見」というのは?
宮崎:
たとえば同じマンドリンでも練習ではパートを交替することがあります。ファーストばかりではなくセカンドを担当したり、ということです。堀くんなんかは全部のパートをやりますよね。そのいろんなパートをやる機会ができるということは、違うパートの役割が明確になります。それと、練習で先生がパート毎に区切って演奏を確かめていく場面がよくありますが、そういうときに、自分以外のパートをみなよく聴くことになるので、これは全体にとって、すごく効果があると思います。

理想と創造

ーー自分の音、ほかの音を聴き分けるというのは難しいことですよね。それを聴き分け、さらにその先、全体で「どのように鳴るのか?」を一人ひとりがつかんでいる状態というのは、どのように聴こえているんですか?
宮崎:
初めてやる曲だと自分のパートの楽譜を見るのでいっぱいいっぱいですよね(笑)。
ーーそれはそうですね。では、いったんはまとまった、たとえば初演当時の演奏と、繰り返し経緯権を積んだ演奏の違いは、先生からはどのように聴こえているんでしょうか?
久保田:
初演の時は「演奏する」ということがまず第一義になりますね。正しい音で鳴る、縦の線を合わせるとか、そういうことが中心になってきますね。その中でどれだけ音楽を持てるか。
 繰り返し演奏するということはいろんな面から見ることができる、ということです。端的には最初は作曲者の視点、次に指揮者の視点。技術的にここはこうしたほうがいい、ああしたほうがいいということですね。それが加わってきます。
 強弱の記号がそういうことを顕していますね。最初はたくさん書いていないんです。それがだんだん増えていきます。作曲者は当然こうなる、と思っているところがある。しかし実際に演奏するとかんたんにそう言う風にはならない。すると細かく指定する。その書き込みが増えていきますね。「繰り返し演奏する」ということは、流れがわかってくることであり、それぞれの役割がわかってくることですね。
ーー技術的な練習の、その先が大事ですね。
久保田:
学生オケではそこまで行く時間がなかなか持てないでしょうね。社会人オケでもその域で音楽を追究するというのは難しいかもしれない。その前の「何をやるか?」がテーマになりがちなのではないでしょうか。
 「何をやるか?」より「どうやるか?」が大事だと思うんですよね。
ーーそれを短期間に全部やるのは難しいでしょうね。
久保田:
しかも、何回やっても「なにかしっくりしない」ということもあります。
ーーそれは作曲者としてイメージが違うまたは離れているというようなことですか?
久保田:
たとえば「序曲第2番」は、私が17のときに作った曲で、上智ではこれまでに何回も演奏してきました。
 この曲は最初から管楽器を入れて作曲したのですが、最近、弦(とティンパニ)だけでできるように再編成しました。さっき練習していた箇所は、マンドラとマンドロンチェロがオクターウ゛で、同じ旋律を弾いていたのですが、どうも響きが違う。そこで、その箇所を、マンドロンチェロがコントラバスと同じ楽譜を弾くように変えました。マンドロンチェロはコントラバスのオクターウ゛高い音になりますが、コントラバスの動きにマンドロンチェロを加えることによって、第1転回形の響きがより鮮明になりました。
ーーそうなると、ひとつの理想に近づけるというよりも、発見と創造が次々に行われている感じですね。
久保田:
しっくりしないところがあったら、そういうふうに直す、とうことはときどきしています。この「序曲第2番」もそうでしたが今回取り上げる「序曲第1番」も少し手をいれています。
 だからなかなか出版できないということにもなるんですが(笑)。
ーーでもそれで、楽譜情報が増え、再現性が高まるということであれば、必要なことですよね。逆に演奏者は、それをしっかり読み込まないといけないわけですが。
久保田:
「しっくりしない」というのは、譜面のせいということではなしに、演奏者によることもありますね。奏者の能力、編成のバランスの問題で聴こえない、ということもありえますね。
ーー他の団体の演奏に接して、新たな発見があるというようなことはありますか?
久保田:
あります。ただ、ここ最近はほとんどありませんね。
 そういえば、演奏を繰り返すことによる発見という点では、フルトヴェングラーのエピソードを思い出しますね。彼は移動するときに団員とは離れ、違う席に座っていつもスコアを見ていたそうです。何10回も演奏しているはずの「運命」「田園」等のスコアを繰り返し眺めていた、ということです。それで会場に着くと「ちょっと集まってくれ」と声をかけて「ここはこうしてみよう」と、新しいことを試みていたそうです。そういう発見が常にあったそうですね。
 何回やっても「ほかの可能性」を試してみるということは、だいじですよね。
(続く)

第20回定期演奏会「久保田孝 傑作選」
http://www.philomandoline.com/concert.html#20th
2013年2月24日
東京・紀尾井ホール

午後2時開演
指揮:久保田孝 演奏:クボタ・フィロマンドリーネン・オルケスター
チケット全席指定(発売中)
第1部
序曲第1番(管なし)
幻想曲第1番
舞踊風組曲第2番
第2部
ピアノとマンドリンオーケストラの為の幻想曲(ピアノ:夏川由紀乃)
第3部
序曲第2番(管なし)
奇想曲イタリア(メゾソプラノ:井坂 恵)
舞踊風組曲第3番

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