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マンドリン演奏会報告

クボタフィロが示すマンドリンポップスの新基準!

(2012.11.11(日)板橋区立文化会館小ホール 撮影:かえるカメラ//レポート:ebekaz)
 クボタ・フィロマンドリーネン・オルケスターが、『マンドリンオーケストラで聴く 世界のポピュラーミュージック2012』と題したコンサートを開催した。プログラムは映画音楽やルロイ・アンダーソン作品、ラテン音楽など、長年、幅広く親しまれている作品ばかり。すべて久保田氏の編曲による。懐かしいメロディーや音楽の楽しさを存分に発揮したひとときをマンドリンの音色とともに満喫した。

 クボタフィロのポップス・コンサートは今回で5回目、前回2007年から5年ぶりとのこと。ギターの時間スタートは2008年からで、マンドリンオーケストラ体験もそこから始まっているので、クボタフィロのポップスに触れるのは、今回が初めて。

 久保田孝さんの経歴から、氏自身の音楽に対する偏見のなさは重々承知していたが、ポップスとはいえ目指すサウンドは、「クラシカル」をベースにした「ポップス」。どんな作品がどんな音で演奏されるのか、期待していた。

“「クラシカル」をベースにした「ポップス」”といえば、60年代~70年代には一世を風靡していた“ストリングスオーケストラ”タイプのサウンドがある。当時はたくさんあった。ムードミュージックと呼ばれたり、イージーリスリングと呼ばれたり。日本語訳的には“軽音楽”と呼ばれた時期もある。代表的なのはポール・モーリア演奏による「オリーブの真珠」あたりだろうか。いまでもちょっとしたマジックショウのバック音楽で使われたりする、アレだ。

 今回のプログラムは、そのセンであるといえばいえるが、もう少し選別されていると感じた。いわば「クボタ・セレクション」だ。メロディーがうまく鳴ることや久保田さんの「好み」、楽団のこれまでのレパートリーであったこと、など、いくつかの基準で選ばれたようだ。しかし、その結果「ムードミュージック」に終わらない作品群になっていた、と思う。それは、どの作品についてもいえることだが、マンドリン合奏による「クラシカル短編集」。小説でいう「ショートショート」のような味わいだ。クラシック音楽で短い作品は、たとえば序曲集であったりソナチネであったり。それでもある程度の「尺(時間)」を要する。それをもっと短い時間のドラマにしたのがポピュラー音楽だ。それを、さらにマンドリン・アートに仕立て直したのが、このポップス・コンサートだった。“マンドリン合奏による「クラシカル短編集(ショートショート)」”と名付けたい。

 マンドリン合奏を聴き馴染んでくると、優れた演奏力さえもってすれば、マンドリン属だけでもヴァイオリン&管によるオケの向こうを張れる演奏ができる。そういう発言を聞く。私自身もそう思う。一方、その中でマンドリンのよさをしっかり残して演じるには、「鳴らし方」が必要で、これはなかなか高度なセンスと技術を要すると思う。ヴァイオリン&管によるオケの「代用」ではなく「マンドリン属によるオケ」ならではのアンサンブルを残すのはかなり大変なことなのだ。この境界線にどれだけ意識的でいられるか? クボタフィロの本領が、ここで発揮されている。

 ステージは2部構成。1部最初が「Time to say good-bye」。オケ版はロンドン交響楽団が演じたこの曲が、作品の力もあるが、マンドリンオケで感動をもたらすのは、トレモロの使い方を含むアレンジと統率力のなせるところだろう。
 2曲目に映画「タイタニック」のテーマ。リコーダーによるイントロは、楽器も奏者も意表を突いて、かつ音色は味わい深い。3曲目にヘンリー・マンシーニ、4曲目シャーマン兄弟、5曲目リチャード・ロジャーズ、6曲目フレデリック・ロウと、映画音楽の巨匠作品が並んだ。このへんは、たぶんに久保田さんの趣味ではないかと思うのだがどうなのだろう? 個人的には「ムーンリバー」の鍵盤ハーモニカがよかった。シンプルな楽器だが、アコーディオン、バンドネオンに通じる民族色を感じさせる味わいが、月明かりの下で歌われる原曲の心情を素朴に描いた。
 「サウンド・オブ・ミュージック」は、この映画のあれもこれも聴きたいと思わせる引き金のようなテーマ。「ムーンリバー」もこの曲も、もっと聴かせてほしいと思う期待を裏切り、A-B形式のメロディーを3回繰り返して瞬く間にコーダに向かう構成だが、このへんが、この作品に限らず、ポップスの思い切りのよさ、鮮やかさだと思う。

 1部後半はルロイ・アンダーソン作品が5曲。この作曲家はボストン交響楽団団員によるポップス・オーケストラである「ボストン・ポップス・オーケストラ」の指揮者アーサー・フィドラーに認められ請われて作曲を始め、数々の名作を残した人。多くはそのボストン・ポップスで初演され、戦後から現在に至るまで、つまり20世紀後半に花開いたオーケストラによる“軽音楽”の先駆けでありこの世界を確立したと言ってよいだろう。その影響力は映画音楽にも及んでいる。
 ところで、「Time to say good-bye」のロンドン交響楽団は、映画スターウォーズを演奏したことでも有名だが、そのスターウォーズの作曲者はジョン・ウィリアムズだ。そしてそのジョン・ウィリアムズは、1980年代から90年代にかけてボストン・ポップス・オーケストラの常任指揮者を務めた。今回のプログラムは、この音楽の縁を鮮やかに聴かせたようにも思う。

 さて、そのルロイ・アンダーソン作品。演奏もしやすく取り上げられる機会も多いが、クボタフィロはどのように演じたのか? こればかりは、聴いてください。ぜひ。ギターの時間でも動画を編集して、オーケストラ、久保田さんと相談して一部公開させてもらおうと思っている。
 また、来春2013年にはこれら久保田氏編曲によるポップス作品を集めたCDも製作予定というから、それをぜひたのしみにしていてほしい。

 なお、1部最後の「プリンク・プレンク・プランク」では会場のお客さんが打楽器で参加するという場面も企画され、元気よく手を上げてくれてた小学生から高校生までの6名が、ベルやキハーダ、フライパン!などちょっと変わった楽器を楽しそうに演奏した。

 2部は、1年間のドイツ留学から帰国したコンサートマスター堀 雅貴氏がソリストとしてフィーチャーされた「黒い瞳」でスタート。10月に行われたアヴィ・アヴィタルとのステージでも聴かれた鮮やかな技巧、音楽のダイナミックスが冴えた。
 以後後半まで日本と世界のポピュラーソング。これまでのレパートリーから選曲されていたと思う。聴き所は満載だったが、とくに面白かったのは、久保田氏がスタンディングで叩くコンガ演奏。アンコールには「コンドルは飛んでいく」のケーナ・パートを久保田氏がリコーダーで演奏。これにハモるパートは普段はマンドロンチェロ担当の大坪さんが同じくリコーダーで加わり見事なハーモニーを聴かせた。これも見事だった(いちばん上、最初の写真)。

 終わってみれば楽しさ優先の演奏会。しかしそれを支えた技術は練習の成果だろう。まじめひと筋に見える久保田孝率いるクボタフィロの、これもまた「まじめに楽しむ」一面を見て、マンドリン・ポップスの可能性、新基準は、ここに置きたい、と思わせるコンサートだった。

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