ギターの時間|gtnjkn

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マンドリン演奏会報告

井上泰信、山田岳、ピアソラの夜。井上泰信マンドリンリサイタルから。

[flagallery gid=27 skin=photo_blog_demo name=Gallery](2012年9月21日(金)大倉山記念館 撮影:かえるカメラ)
 9月21日横浜、23日東京の日程で行われた井上泰信マンドリンリサイタルは、当初予定していたギタリスト松尾俊介が急病で出演できなくなり、急遽、山田 岳(やまだがく)の出演という情報が流れ、どうなるかと思った公演で、同時に個性と個性のぶつかり合う新しい世界が見られるかと思っていたら、これが絶妙の均衡と美を創り出す傑出した公演となった。大倉山記念館を取材した。

 実際、山田岳との共演に関して「異種格闘技戦さながら」と、公演直前、井上さんは話していた。それはそうだろう。
 山田岳氏は、正統クラシックギターを身につけ、古楽演奏解釈も学ぶ一方、現代音楽にその活動の中心を置き、国内外の多くの新しい作曲家たちと交友し、それらの作品演奏の質と実績で、各方面で高い評価を得ている人。留学時代から、既にクラシックギターのワクを飛び出していた。
 精神的な面では、音楽と活動から見る限り、井上泰信という人は、古典から現代まで間口は幅広い。しかし、基本はロマン派の人であると思っている。その人が、基本は常に先端ギリギリのところで活動する山田岳という異色のギタリストとピアソラをやったりするのだ。一音、ひと呼吸の間合いに緊張が走りそうだ。が、ステージのふたを開けてみると、これは驚いた。二人の呼吸は絶妙にハマって聴こえたのだ。

 雨の上がった横浜は大倉山の駅からすぐの場所にある大倉山記念館は、実業家で後に東洋大学学長を務めた大倉邦彦(1882-1971)が昭和7年(1932)「大倉精神文化研究所」の本館として建設したものだという。設計は日本建築史にも足跡を残す古典主義建築の第一人者、長野宇平治で、ギリシャ神殿様式のピロティー、昭和初期の雰囲気と、神社建築の木組みなどがミックスされ、荘厳かつ懐かしい雰囲気を持つ。ホールのたたずまいも美しい。映画やテレビのロケ地としても数多く使われているそうだが、さもあろう。

 そのホール、空調の音が少し残念だが、祭壇のようにも見える景色と音響はなかなか洗練されている。
 この日、出演者二人の会場入りは交通事情もあって少し遅れ、そのため開場までのリハーサル時間は限られていた。音響の確認等はほんとうにわずかな時間。それで合わせて即開場。しかしやがて始まった公演は、にわか作りを感じさせない。
 ただし、井上泰信のステージ衣装に対する自由な雰囲気を持つ山田岳との対比はおもしろい。ところが音楽はスリリングだ。とくにピアソラ! このことをぜひ記録しておきたい。

 ピアソラを聴いたのは、クラシックギターによるソロ演奏からだった。複雑なリズム構造とメロディーを絡める技巧的な演奏を強いる作品が多い人だなあ、と思っていた。それだけに弾く人、それを好きだという人に対しても、洗練と熟練による「巧み」が好きな人、であり、そこが聴き所だと思っていた。

 その後、CD、映像化されたピアソラ楽団を見て聴いて驚いた。ギターソロの演奏とはまるで異なる生々しく、血の匂いさえ感じる魂の叫びと楽器どおしの衝突、そこから起きる即興的な緊張感、ときにユーモアに、衝撃を受けた。これはマイルス・デイビス・バンドの衝撃に匹敵する! このドキドキわくわく感から、どうもギターソロ演奏はひどく遠い。物足りない。そう思っていた。ところが、この空気が大倉山のステージから聴こえていた。

 2部冒頭のギターソロは、1曲ながら、さらにクラシックギター1本による表現力の広さ、深さを炭層させる山田岳の面目躍如たる演奏だったと思う。また、マンドリンソロもマンドリン+トレモロの叙情性を堪能させた。そして「シリウスの帰還」はマンドリンとギターによるデュオが、主と従の関係ではなく、常に均等、対等で音のバランスも楽しく躍動する音楽の醍醐味を伝えたのだった。

【関連動画】
Piazzolla by Inoue-Yamada-1

【演奏曲目】
ゲスト:山田 岳(ギター)
1部 ~ピアソラ没後20年~
Tanti Anni Prima(徳武正和編)
Escualo(遠藤秀安編)
Oblivion(遠藤秀安編)
タンゴの歴史より Cafe1930、NightClub1960
2部
ギターソロ(山田 岳)
AZZURRO 丸本大悟(Mnソロ)
ふるさと 中野二郎(Mnソロ)
KAZE   長岡 克己
シリウスへの帰還 ミゲール

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