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マンドリン演奏会報告

祝40周年! コンコルディア第40回記念定期演奏会は上質なフルコース。

(6/16 東京・かつしかシンフォニーヒルズ 撮影・文:江部一孝)

40周年記念定期演奏会CDは9月発売予定。
問合せ:コンコルディアHP
 マンドリンオーケストラ・コンコルディア、通称コンコルディアの第40回記念定期演奏会を収録したCDが、間もなく発売される。これを機にそのステージをレポートする。
 6月16日(土)、東京・かつしかシンフォニーヒルズで行われたステージには、現在の構成員だけでなく、いったんこのオケを離れた「OB」の参加もあったのだと聞いて、40年の道のりを改めて感じさせた。
 公演のプログラムは、イタリア作家のラヴィトラーノ、コペルティーニ、マネンテといったこのオーケストラの結成間もない時期から親しんだ作品や、小林由直、吉水秀徳ら、このオーケストラの中心となるメンバーが若い時代に出逢った同世代の作品、そして彼らがライフワークとして取り組む歸山榮治の作品。そして記念ステージとして熊谷賢一、鈴木静一といった20世紀を代表する日本人作曲家の作品を集めている、まさに記念の年に相応しいものである。若い頃習熟した作品を、数十年を経て演じることの面白さは、当人たちで なければわからないかもしれない。どんな想いでいるのだろう? そういうステージを、傍からにわかに見て、どれだけ楽しめたか? そのあたりがレポートを 躊躇していた理由だ。が、外から見たレポートは、それはそれで意味あり、と思うことにした。
 余談ながら、そういうのはいつも考えていて、それほど気にしないのだが、このステージからは、さまざまなサイド・ストーリーも聴こえてきた気がした。なにか侵しがたさも併せ持っているような。が、音楽はグイグイくる。なかなか言葉にしがたい気がしていた。

 1部のステージは、「小序曲 ローラ」「夜曲」「幻想曲 華燭の祭典」を、コンコルディア創設時の指揮者である知久幹夫、太田茂、そして現指揮者である横澤恒の各氏が、それぞれ振った。これがよかった! 3人3様。知久、太田のお二人はこのオケのOBであるという。姿が、指揮ぶりが名演奏家の映像を思わせた。なぜ現役で振らないのか? いや、また別の場所で指導されているかもしれないのだが、現役ステージはこれを最後にされるという。なんとも惜しい。カラヤンは65歳になったとき、「ようやく65歳。」これから本格的にクラシックを振ってくれるだろう、というキャッチコピーがドイツ・グラモフォンの広告に出た。演奏やとくに指揮は、年輪を重ねなければ表現できない領域がある、と思う。
 ともかく風貌からの連想もあるが、 知久氏はフルトベングラーを、太田氏はブルーノ・ワルターを、そして横澤氏の後ろ姿にはメンゲルベルクを見た。アムステルダム・コンセルトヘボウの立役者/常任指揮者のあの姿。指揮者を含めオケのたたずまいにこんなことを感じたのは、初めてだ。それぞれ戦前戦後を通じて名指揮者として活躍した彼らのような動きのキレとやわらかさ。音楽の風情と指揮ぶりがぴたりとハマっている。どの曲も初期コンコルディアのレパートリーであったと聞く。練習で何回も演奏しながら、本番演奏で、改めて懐かしい、とかんじる演奏者冥利までは想像するしかない。でも、そういうたいせつな曲をたいせつに演奏している音楽は、聴こえる。

 初めてコンコルディアに接して、「これはまたたいへんなオケを今までスルーしてきた」、そう思い、とっさにビデオを取り出し取材撮影した。後日編集したその一部はオケの許諾を得て自YOUTUBEサイトにも公開した。が、コンコルディアは、これまでの音もステージ映像もきちんと記録として残している。ぜひ、のぞいてみてほしい。

 さて若き日々を追憶する第2部の歸山榮治、小林由直、吉水秀徳の3作品は、それぞれの作品の全容を知ってる身ではないので多くは語りがたいが、それぞれの瑞々しさが一音一音から伝わってくる。ともに、馴染みやすい和声と構成。ことに小林氏の作品は、近作が小編成で音の躍動を編み出す面白さが真骨頂に感じているから、いわば老成感さえあるように聴いた。それは、歸山、吉水にも同じことが言えるかもしれない。まだまだ爆発する兆しは隠れて見えにくい。現役作曲家の若い頃の作品を、こうしてまとめて聴けたのはとても得した気分だ。

 第3部。熊谷賢一「宇宙船地球号は歌う」と鈴木静一「幻の国 邪馬台」も期待が大きかった。とくに熊谷作品。タイトルからは連想しにくい話だが、勝手にかなり難解な音楽を想像していたのだ。その期待を裏切って溌剌とした音楽が鳴り響いた。

 合唱を伴う「宇宙船地球号」は、フルタイトル“マンドリンオーケストラの為のボカリーズVIII「宇宙船地球号は歌う」”。コンコルディアの解説に「作者の歌謡性が最も発揮された作品」とある。体ごとノリたくなるリズム。そしてなにより口ずさみたくなるメロディー。タイトルから言ってもまあ想像できることであったが、熊谷賢一の名前と写真などからベートーベンの後期弦楽四重奏的なことをイメージしていたものだから、意表を突かれた。知らないとは恐ろしい。多作で様々なジャンルに作品を提供して来られている。小中高生の為の合唱曲もたくさん作っているという。

 コンコルディアのメンバーには、「青山学院大学や跡見女子大学、九州大学、竹内マンドリンアンサンブルなどで鈴木氏から直接薫陶を受けた部員が何人もおり、クラブ創設初期には重要なレパートリとなっていた」とのこと。ちなみに指揮の知久幹夫、太田茂両氏も鈴木静一門下であるという。40年の歴史を持つオケには、鈴木静一と深い縁を持つオケが多いようだ。そしてその背景には鈴木静一による日本史への憧憬、いや日本人への愛があると思う。日本にマンドリン合奏が定着し親しまれている理由の一つは、このレパートリーが支えている。そう断言したくなる要素を持っていると思う。音楽としては「邪馬台」も、いわば鈴木静一節。明確なモチーフを持ってストーリーを音で描いていく作品。さらにステージ最後を飾るにふさわしいエンディングを持っており、聴き手も奏者とともに達成感、高揚感に充たされた。

 コンコルディア・ホームページは曲目解説や邦人作曲家の作品リストなど、充実したデータを公開している。マンドリンへの愛を具体的に資料化し財産として持っている。にもかかわらず、先客万来。来るもの拒まず。この姿勢はほんとうに頼もしいしうれしい。そしてその志は美しいとさえ思う。音楽は聴いてなんぼのもの。しかも知識を広げればなおおもしろさは広がる。コンコルディアはマンドリンをマルチアングルで楽しんでいる。その楽しさがそこかしこににじみ出ている。

【プログラム】
第1部
小序曲「ローラ」(1902) Hyacinthe Lavitrano
夜曲 (1905)Spartaco Copertini
幻想曲「華燭の祭典」(1903) Giuseppe Manente / 中野二郎 編曲
第2部
マンドリンオーケストラの為の小組曲「玩具」 (1971,1979改作) 歸山榮治
マンドリンオーケストラの為の「星の庭」(1985・初稿版) 小林由直
2つの動機(1982,1987改訂) 吉水秀徳
第3部
マンドリンオーケストラの為のボカリーズVIII「宇宙船地球号は歌う」(1981) 熊谷賢一
大幻想曲「幻の国」(1970・初稿版) 鈴木静一

【関連リンク】
コンコルディア ホームページ
Youtube CONCORDIA Channel
●動画サイト Mandolin Orchestra Concordia Media Archive

【公演予定】
●コンコルディア 第41回定期演奏会
2013年6月29日(土)(開場、開演時刻未定)
かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホール
(京成本線「青砥駅」徒歩7分)
歸山榮治:委嘱作品初演
熊谷賢一:マンドリンオーケストラの為のボカリーズⅣ「風の歌」
大栗裕:マンドリンオーケストラの為のシンフォニエッタ第4番「ラビュリントス」 他

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