2010年師走のある日、11月に続きクボタ フィロマンドリーネン オルケスターの練習会場におじゃました。この日も何曲か練習したが、取材させていただいた午前中に取り組んでいたのは「芸術家の生活」。長らく「芸術家の生涯」というタイトルで親しまれてきた作品だ。音を出しての練習は10時から始まっている。途中からそっと会場に入り、ビデオをまわしたりスチル写真を撮影したり。
会場はガラス張りの明るく広い部屋。江東文化センターの一室だ。練習には適しているようだ。音もよく回り込んで取材する側も収録しやすいように思えた。少し演奏しては繰り返し同じ場所をチェック。場所場所により、主となるパート、周辺のパートの個人練習的な時間を挟みつつ進む。ラフに聴こえている演奏がわずかな指示と、短い反復練習を経て豊かな楽想に変わって行く。リハーサル現場というのは、こういう瞬間がとてもおもしろい。昼前にはほぼ姿を見せてきた演奏を収録。これを短く編集して練習風景と合わせ、YOUTUBEに公開した。
まだまだ未完、練習途中の演奏なので団員のみなさん、久保田先生にすれば、ちょっと、あるいはだいぶ「意義あり」かもしれない。が、「ぜひ」と公開させていただいた。みなさんも一聴してみてほしい。初見の合わせ小一時間。そして、これがさらに本番でどれだけ化けるのか?
休憩時間に久保田先生に話を聞いた。
ーー楽譜に書かれているタイトルは Ku”nstlerlebenでしたね?
久保田:「芸術家の生涯」ですね。今回、日本ヨハン・シュトラウス協会に後援をいただき、その関係で文章もお願いしました。そこでシュトラウス協会の方に訳してもらったテキストでは「芸術家の生活」になっていました。キュンストラーレーベン・・・レーベンという言葉には(1)生命(2)一生(3)暮らし・・・という意味がありますが、曲調から感じる事は、深刻な雰囲気ではなく、むしろ明るい、爽やかな雰囲気なので、「生涯」より「生活」の方が相応しいのかも知れません。
ーーそれで「芸術家の生活」というタイトルが採用されているんですね。実際に少し聴かせていただきましたが、個人練習による下準備はそれぞれバラバラでしょうから、それをこの場で初めて合わせている、ということですよね?
久保田:いえ、練習はしてません。朝から全員初めてこの曲をやっています。今日のギタートップの平田くんに僕が総譜を渡し、そこから彼が昨日パート譜を作って完成させました。
ーーえ?またしても初見でみなさん弾いているんですか? そうすると、いきなり音出ししながら進めるんですね? 最初はともかく1回通すんでしょうか?
久保田:通すのは難しいです。いろいろ決めなければいけないことがたくさんあるから、少しずつ進めて行きます。
ーー音の出し方、鳴らし方、ピッキングの方法等からフレージング、表情、タイミングなどを聴いて確認しながら進めていましたね。
久保田:譜面にはこう書いてあるけど、こうしよう、とか。じつはシュトラウスのオーケストラ版の完全な譜面というのはないんです。間違いの多いパート譜とピアノ譜から検討して作り上げたのが、今、我々が手にすることの出来る「スコア」という事のようです。
最近ウィーンのシュトラウス協会から出たスコアがありまして、「美しき青きドナウ」の編曲はそれに依っています。