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クボタフィロ 本番直前、今年の定期演奏会の聴きどころ

クボタフィロの2月5日のリハーサルをレポート。(撮影:kaerucamera)
【演奏動画】「ウィーンの森の物語」から
ていエンリハ
本番で予定されているすべての曲は、かなりの精度ですでに、完成しており、この日は、「それに、磨きをかける」というか、最後のブラッシュアップと微調整であった。進行の仕様はゲネプロ。取材班は、この日はもうひとつ予定していたアンサンブルテスタカルドのリハ/本番取材が時間的にかぶっていたので、クボタフィロの現場取材は2時間ほど。その中で、「こうもり序曲」の一部と、「美しく青きドナウ」、「ウィーンの森の物語」の練習を聴かせていただいた。
「こうもり序曲」はイントロやコーダの速弾きによる聴き所などとくに高い完成度を感じた。トレモロがきれいに揃うクボタフィロならではのアンサンブルが、ジェットコースターのように駆け巡る。「美しく青きドナウ」のおおらかな曲調は、マンドリンだけが作り出せるトレモロの光沢に、さらに磨きがかけられる。通しの後、部分部分、拾いだして繰り返し細部の確認も行われる。
「ウィーンの森の物語」は、序奏のあとすぐにチターによるソロが入る。映画「第三の男」のテーマで一躍有名になった楽器だ。音、演奏法ともに個性的なウィーン発の楽器。これには多年これに取り組んでいるチターの名手・内藤敏子さんの到着を待って、リハーサルに入った。オケからチターに、また、チターからオケに切り替わる絶妙の間が、美しい。
ウィンナワルツのリズムはウィーン人にしか創り出せない。そういう言葉をずいぶん前に聞いたことがある。遥か昔の学生時代、グレゴリオ聖歌からメシアン、武満まで聴き狂っていた個人史の中のクラシック音楽全盛時代だ。その言葉を聞いたとき、しかしベルリンフィル、ロンドンシンフォニー、ニューヨークフィル、フィラデルフィアなどあまたある名オーケストラの名手たちによる華やかなワルツはどう評価するのか? あれはウィンナワルツではない、というのか? 疑問に思ったものだった。
当時は日本語でロックミュージックは成立するのか?という議論もあった。日本人にブラックミュージックはできない、というのもあった。40数年を経て、それらは混血の形で見事に花開いている。というよりも何のことを言ってるのかわからず、ぽかーんとしてしまう人のほうが多いと思う。言ってみれば音楽上の都市伝説だ。
小沢征爾の振るウィンナワルツの沸き立つ高揚感をどう説明するのか?
マンドリンは弦楽の代用に過ぎない。そう考えてしまうと先に進まない。久保田孝氏は、その先を早くから見据えて「クラシック作品をマンドリンオーケストラでやる」意義を具体的に、かつ明快な方法論とともに実践してきた。定期演奏会の記録はすべてCDで聴くこともできる(発売=NAVI)。
今回の企画は「ウィーンはどうか?ウィンナワルツは難しくないか?」そんなところから始まったと聞く。「やり始めてから、編曲作業も含め、たいへんなこと」とかんじたと、以前久保田さんは質問に応えてくださった。じつは正式なオケ譜はこの世の中にない、という状態からの出発。三重苦? 先の見えにくい挑戦だったような気がする。それが、こうして完成間近かの演奏を聴いていると、マンドリンだから作り出せるウィンナワルツが日本人の手によって演奏される。
クボタフィロの歴史の中で、今年いちばん、ではなく、これまででもっとも挑戦的なプログラムが展開する。それが第18回定期演奏会なのだ。
残念ながら発売できるチケットはあとわずかと聞いた。早めの電話、早めの当日券で、ぜひこのイベントを実体験してほしい。