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マンドリンと弦楽トリオ。新しい世界の出現。柴田高明、三戸素子が語る

マンドリンと弦楽トリオ。新しい世界の出現。柴田高明、三戸素子が語る

柴田高明が新作CD「冬のエレジー〜ELEGY in WINTER」を発表した。収録曲は邦人作曲家の4作品。演奏は柴田高明(マンドリン)と弦楽トリオ・・・三戸素子(ヴァイオリン)、河野理恵子(ヴィオラ)、小澤洋介(チェロ)。3月、東京、広島、京都でこのCD発売記念公演も行った。
このプロジェクトにはたくさんの発見がある。聴き手、すくなくとも私はこの組合せは大きな「発明」ではないかとさえ思っている。柴田さんは以前「再発見」である旨の発言をされた。このプロジェクトのスタートから現在までについて聞いた。

構想と実現

ーーこのプロジェクトの発想と、結成にいたるいきさつを教えてください。

柴田:3年前に、マンドリンとフルート、チェロとの組み合わせでコンサートを行う企画を考えていた際、指揮者の橘直貴氏にお願いし、チェロの小澤洋介氏をご紹介いただきました。橘氏とは、以前に札幌のマンドリン団体で桑原康雄の協奏曲「籟動」で共演させていただいき、それ以来の知り合いでした。

2012年2月のリサイタルでは、小澤氏との二重奏でレオーネのソナタを、またフルートとのトリオ(fl、vc、mand)で小林由直氏の新作初演をさせていただきましたが、桑原氏の無伴奏作品なども通じて、小澤氏にはマンドリンの音楽に共感を持って演奏していただき、非常に充実した演奏会となりまし た。

(関連記事:柴田高明〜18世紀と現代〜リサイタル速報、柴田高明、小林由直インタビュー)

ーーあの公演も素晴らしいものでした。チェロがマンドリンにとってすごく相性の良い楽器であるとも思いました。

柴田:あの公演で、これは私の中に以前からあった野望を実現するチャンスと思いました。つまり、「マンドリンと弦楽トリオ」のコンサートを行うことです。
 この編成の作品は決して数は多くはないものの、古典から近代、現代まで各時代に渡って残されています。しかし残念ながらほとんど耳にする機会はなく、いつかは私もこのような編成のコンサートを行ってみたいと留学中から考えていました。幸いにも小澤氏の奥様、三戸素子氏もヴァイオリニストとして国際的に活躍しておられ、またお二人は独自に弦楽四重奏やオーケストラの活動も行っておられることから、弦楽四重奏のメンバーであるヴィオラの河野理恵子氏をご紹介いただき、今回のメンバーが決定しました。

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ーー実現に向けては、柴田さんのマンドリンに対する展望、熱意が大きかったと思います。この編成への期待もみなさん持たれたのでしょうね。それで、最初の手応えは?

柴田:最初に皆で集まり、既存の作品を実際に音にしていく瞬間は、もうただ嬉しかったですね。今まで楽譜を見るしかできなかった曲が、実際に自分が弾いて音になる。これは本当に幸せな瞬間でした。しかし同時に、やはり楽器の音量バランスやタイミングの問題、また音程を自由に使える弦楽器の表現力の大きさを感じ、既存の作品で一晩の充実したプログラムを組むことが容易ではないことが分かりました。しかし、中には素晴らしい魅力を発揮する作品もあります。ということは、この編成により多くの魅力ある作品を与えることができれば、結果的に既存の優れた作品も残すことにつながり、マンドリンの将来に貢献することになるのではないか、と考えました。

 また、この編成の為に書かれた日本人の作品が、桑原康雄の「冬のエレジー」しか存在しない事から、日本のマンドリン音楽が将来クラシックの世界での地位を確立できる為に、日本人の作曲家に作品を依頼することにしました。
 こうして、2013年2月に行ったコンサートでは、西澤健一氏の「コンチェルティーノ」初演と、桑原康雄「冬のエレジー」、ホフマンの「四重奏曲ヘ長調」を、そして2014年3月には、藤井敬吾氏「アストロナム四重奏曲」、小林由直氏の「四重奏曲」初演、またウールの「シュピールムジーク」、ホフマンの「四重奏曲イ長調」を演奏しました。(関連記事:点と線の舞。柴田高明マンドリンリサイタル)

 今回レコーディングを行うにあたり、ホフマンやウールの美しい作品を残すことも大事ではあるものの、日本人の作品を将来に残すことがより意義深いと考え、今回の「現代邦人作品集」作成に至りました。

ーー歴史的にも、自然なカルテットだったのですね。でもこのアンサンブルから生み出される音楽は、ヴァイオリン属だけによるものよりも「幅」を感じ、かつ、現代作品に「合っている」と感じます。

柴田:マンドリンは、18世紀にクラシックの独奏楽器であったので、フルートやピアノ同様に、弦楽との組み合わせで用いられることはとても自然な事であったように思います。それは、当時の作曲家の多くが、マンドリンを独奏楽器にした協奏曲や室内楽作品を残している事からもよくわかります。

 結局、質の違った音を組み合わせることで、両者の特長がより活かされて音楽の幅が広がるのです。

 マンドリンには、弦楽のような持続音や、ビブラートの多彩な表現はできません。しかし弦楽には、マンドリンのような明るく明瞭な発音や、儚く消えていく減衰音の美しさは出せないのです。その両者の特長が効果的に組み合わせられれば、この編成は魅力ある音楽を創り出すのに大きな可能性を持っていると思っていました。そして、実際にメンバーで音をだし、リハーサルを重ねることにより、私が思っていた以上にこの編成が魅力的であること、またマンドリン自体が美しい楽器であることを改めて感じさせられたことは、私にとって非常に素晴らしい発見でした。

特性の差を越える

ーー合わせる上で難しく感じた点があれば教えてください。またはヴァイオリン属との「特性」の差・違いについて教えてください。

柴田:アンサンブルの上でのポイントは、ヴァイオリンの三戸さんが詳細に書かれているので、私はマンドリンの視点からお話しします。

 私にとってポイントになったのは、マンドリンの特長である、音の「軽さ」と「速さ」でした。この両方の要素はお互いに作用しあうものです。

 例えばアレグロの16分音符を弦楽とユニゾンで弾く場合、マンドリンのダウンアップの音は弦楽の音より早く発音され、弦の音が後からより大きな音で発せられるので、マンドリンの余韻は消され、響いていないような貧しい音に聞こえてしまいます。
 また、短い音符そのものの感じ方も、私が今まで弾いてきた感覚よりも、各音がより広く、また音の密度が濃くとられているように思いました。

 これに対処するには、マンドリンの余韻が太く長く発せられなければいけないし、その上で弦楽と同様に、各音のスペースをきっちり取らないといけません。その為、普段よりピックを深く弦に入れ、右手の動く幅を広くとりました。
 しかし、これだけでは重たい演奏になってしまい、現代曲には効果があっても、ホフマンのような古典作品には対応できません。ですから、マンドリンの「軽さ」と「速さ」という特長を失わず、表現の幅を得られるよう、バランスに注意しながら調整しました。

 その他、音量バランスや音程の問題などは、三戸さんの書いておられる通りです。弦楽の皆さんが、音程を調整してそれぞれの和音を美しく響かせ、そして転調をしっかり表現されるその音作りには、最初はただ感嘆するしかなかったのですが、最後にはその作業に一緒に加われるようになっていました。

 こうしたの発見が得られたのも、素晴らしい実力を持った共演者の方々が今回のプロジェクトに共感してくださり、毎月のようにリハーサルを重ねてくださったお蔭です。ご協力いただいた関係者各位に、心より感謝します。

弦楽トリオからみたマンドリンの世界

文:三戸素子

 ヴァイオリン三戸、ヴィオラ河野、チェロ小澤三人を代表して、マンドリンとの共演に際しての面白かった点、苦労した点をお答えします。私たちの目から見た感想です。

 柴田氏から四重奏のお誘いがあったのは2年前で、かれこれ2年間以上にわたるプロジェクトでした。

 柴田氏のことはその前年、フルートとチェロとの三重奏のコンサートを聴き、普段触れることのないマンドリンという楽器を耳にしました。
また氏がこの楽器を特殊なものではなく、古くからヨーロッパで発達した楽器のひとつとして、また芸術を表現するに足る楽器として将来へ発展していくために、こういった試みをしているのに共感していました。

 初めて氏が音源もなく、この編成用に書かれた楽譜を集めて来られて音にしてみた時、数も少なくこれで一晩分のちゃんとしたプログラムが組めるのか、と心配になりました。その何もないところから、柴田氏は何人もの気鋭の邦人作曲家にこの編成の作品を委嘱し、またもっと楽譜を集め、ついに2晩分のプログラムができるまでのレパートリーを創り上げられました。
 委嘱された新作も、この新しいジャンルのための工夫を凝らした曲が出来上がってきました。CD収録の4曲もそうですが、プログラムはどの曲も全く違った個性の曲が取り合わされ、内容豊富なものとなりました。

 柴田氏は、この作曲家と思い定めて的確に委嘱されていったことも含め、マンドリン四重奏というものを本当に無から、ここまでの内容のジャンル、そしてCDに創り上げられたと思います。また日本人音楽家として、邦人作曲家の素晴らしい作品集CDを日本から発信できたのが、意味のあることだと思います。

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 最初に合わせたとき、おなじ弦楽器でも撥弦楽器であるマンドリンと弓で弾く擦弦楽器のアンサンブルは単純ではないのを感じました。弦で線のように音を持続させることができるので、点であるマンドリンの音をなぎ倒してしまうのです。

 またマンドリンが大事にしている余韻の感覚が、私たちのものとは違いました。私はギター、ハープ、チェンバロなどの楽器とも室内楽の経験がありますが、一番チェンバロと近く感じました。ギターとはだいぶ違い、ギターとハープがやや近いような感じです。つまり、マンドリンは響きを混ぜ合わせて音楽を創る感じではないのです。
 1年目は何しろ音量を落とすことで対処しましたが、2年目あたりから音量ではなく、マンドリンの発音とこちらの発音のタイミングをわずかにずらして、マンドリンの発音の邪魔をしないように弾いたり、マンドリンの音域を読んで、そのエリアに入らないように響かせたりすることができるようになってきました。

 去年はもっと音量を落とすようにと、バランスを聴いていただいた方からしょっ中言われましたが、今年は特別落とさなくてもほとんど何も言われません。柴田氏も響かせ方を工夫なさったのでしょう、だいぶ音量が増えたような気がします。
それから残響に対するマネージメントは、お互いが歩み寄ったという感じです。柴田氏はあまり厳格に感じないように、私たちはマンドリンの残響を計算して弓を離すタイミングとスピードをコントロールしています。もう一つの大きな問題はマンドリンにフレットがあり、音程が決まっていることでした。

 西澤氏の曲の中に一人ずつ弾いていくテーマが最後にユニゾンになるのですが、ここが何度やっても合わないのです。最初はこちらの音程が悪いのかと思っていましたが、私たちが音楽的にとる音程はけっこう柔軟性持たせていますが、マンドリンは音程が固定されていて、これが原因なのが顕著に出ました。これは楽曲創りの点でかなりの制約になるかと思われましたが、優れたピアニストが調律されたピアノで様々な音を出し、調性感を表現できるように、柴田氏もピックの方向やスピードを変えたりして、私たちも音程の幅の限界をわきまえることと、音の高さというより響きの方向で表現することにより、西澤氏のユニゾンだけでなく、調性音楽のほとんどのキャラクターを、この頃は不自由せず塩梅できるようになってきました。
 また、私たち擦弦楽器固有の上げ弓下げ弓で作る、曲特有のアウフタクトやアクセントも、同じような技術とタイミングにお互いが工夫をして、一緒に表現できるように、毎月リハーサルを重ね、録音やコンサートを重ねるたびに、進歩してきたように思います。

 柴田氏は、この作曲家と思い定めて的確に委嘱されていったことも含め、マンドリン四重奏というものを本当に無から、ここまでの内容のジャンル、そしてCDに創り上げられたと思います。また日本人音楽家として、邦人作曲家の素晴らしい作品集CDを日本から発信できたのが、意味のあることだと思います。
 発見の多い音楽創りの機会を作って下さった柴田氏に、感謝しています。
(撮影:かえるカメラ at 日暮里サニーホール)

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